看護の基本「リスボン宣言」とは?内容をわかりやすく簡単解説!

リスボン宣言は患者さんの権利と責任に関してWMA総会で採択された宣言です。
患者の権利に関する宣言は、看護師として知っておきたいですよね。
今回は医療の基本であるリスボン宣言について紹介します。
全文、リスボン宣言やインフォームド・コンセントの歴史、患者の権利に関するその他の宣言をまとめました。
リスボン宣言とは
WMAとはWorld Medical Associationの頭文字を取ったもので、和訳すると世界医師会です。WMAには現在115カ国が参加しており、全世界を代表した国際的な連合体だと言えるでしょう。
日本医師会は1951年より、WMAに加盟しています。
リスボン宣言とは、平たく言えば患者さんの権利に関する宣言のこと。
序文と11原則で構成されており、患者さんの持ちうる権利を明確にしています。
リスボン宣言では、医師は良心に基づいて患者さんの利益のために最善の行動をしなければならないと規定されています。
1981年に採択され、修正を重ね現在の形になりました。
1995年9月、2005年10月に修正が行われ、2015年4月にWMAの理事会で再確認が行われています。
リスボン宣言とインフォームド・コンセントに関する歴史
ただ同意を取ることではなく、医療者と患者さんが十分に話し合い、納得することが重要です。
アメリカでは1960年後半にインフォームド・コンセントが広く容認され始めました。
1964年のヘルシンキ宣言で提唱されたことを皮切りに、インフォームド・コンセントに関する認知は拡大し、1973年にはアメリカ病院協会で「患者の権利章典」が採択されました。
日本では遅れること20年、1980年後半になってこの考えが強調され始めました。
1992年の医療法の改正では、インフォームド・コンセントのあり方について、決議が行われました。
2013年に厚生労働省が発表した精神保健福祉法に基づく指針では、インフォームド・コンセントは精神医療に置いても基本としなければならないと記載されています。
リスボン宣言の11原則
序文は以下の通りです。
医師、患者およびより広い意味での社会との関係は、近年著しく変化してきた。医師は、常に自らの良心に従い、また常に患者の最善の利益のために行動すべきであると同時に、それと同等の努力を患者の自律性と正義を保証するために払わねばならない。以下に掲げる宣言は、医師が是認し推進する患者の主要な権利のいくつかを述べたものである。医師および医療従事者、または医療組織は、この権利を認識し、擁護していくうえで共同の責任を担っている。法律、政府の措置、あるいは他のいかなる行政や慣例であろうとも、患者の権利を否定する場合には、医師はこの権利を保障ないし回復させる適切な手段を講じるべきである。
1.良質の医療を受ける権利
a. | すべての人は、差別なしに適切な医療を受ける権利を有する。 |
b. | すべての患者は、いかなる外部干渉も受けずに自由に臨床上および倫理上の判断を行うことを認識している医師から治療を受ける権利を有する。 |
c. | 患者は、常にその最善の利益に即して治療を受けるものとする。患者が受ける治療は、一般的に受け入れられた医学的原則に沿って行われるものとする。 |
d. | 質の保証は、常に医療のひとつの要素でなければならない。特に医師は、医療の質の擁護者たる責任を担うべきである。 |
e. | 供給を限られた特定の治療に関して、それを必要とする患者間で選定を行わなければならない場合は、そのような患者はすべて治療を受けるための公平な選択手続きを受ける権利がある。その選択は、医学的基準に基づき、かつ差別なく行われなければならない。 |
f. | 患者は、医療を継続して受ける権利を有する。医師は、医学的に必要とされる治療を行うにあたり、同じ患者の治療にあたっている他の医療提供者と協力する責務を有する。医師は、現在と異なる治療を行うために患者に対して適切な援助と十分な機会を与えることができないならば、今までの治療が医学的に引き続き必要とされる限り、患者の治療を中断してはならない。 |
2.選択の自由の権利
a. | 患者は、民間、公的部門を問わず、担当の医師、病院、あるいは保健サービス機関を自由に選択し、また変更する権利を有する。 |
b. | 患者はいかなる治療段階においても、他の医師の意見を求める権利を有する。 |
3.自己決定の権利
a. | 患者は、自分自身に関わる自由な決定を行うための自己決定の権利を有する。医師は、患者に対してその決定のもたらす結果を知らせるものとする。 |
b. | 精神的に判断能力のある成人患者は、いかなる診断上の手続きないし治療に対しても、同意を与えるかまたは差し控える権利を有する。患者は自分自身の決定を行ううえで必要とされる情報を得る権利を有する。患者は、検査ないし治療の目的、その結果が意味すること、そして同意を差し控えることの意味について明確に理解するべきである。 |
c. | 患者は医学研究あるいは医学教育に参加することを拒絶する権利を有する。 |
4.意識のない患者
a. | 患者が意識不明かその他の理由で意思を表明できない場合は、法律上の権限を有する代理人から、可能な限りインフォームド・コンセントを得なければならない。 |
b. | 法律上の権限を有する代理人がおらず、患者に対する医学的侵襲が緊急に必要とされる場合は、患者の同意があるものと推定する。ただし、その患者の事前の確固たる意思表示あるいは信念に基づいて、その状況における医学的侵襲に対し同意を拒絶することが明白かつ疑いのない場合を除く。 |
c. | しかしながら、医師は自殺企図により意識を失っている患者の生命を救うよう常に努力すべきである。 |
5.法的無能力の患者
a. | 患者が未成年者あるいは法的無能力者の場合、法域によっては、法律上の権限を有する代理人の同意が必要とされる。それでもなお、患者の能力が許す限り、患者は意思決定に関与しなければならない。 |
b. | 法的無能力の患者が合理的な判断をしうる場合、その意思決定は尊重されねばならず、かつ患者は法律上の権限を有する代理人に対する情報の開示を禁止する権利を有する。 |
c. | 患者の代理人で法律上の権限を有する者、あるいは患者から権限を与えられた者が、医師の立場から見て、患者の最善の利益となる治療を禁止する場合、医師はその決定に対して、関係する法的あるいはその他慣例に基づき、異議を申し立てるべきである。救急を要する場合、医師は患者の最善の利益に即して行動することを要する。 |
6.患者の意思に反する処置
7.情報に対する権利
a. | 患者は、いかなる医療上の記録であろうと、そこに記載されている自己の情報を受ける権利を有し、また症状についての医学的事実を含む健康状態に関して十分な説明を受ける権利を有する。しかしながら、患者の記録に含まれる第三者についての機密情報は、その者の同意なくしては患者に与えてはならない。 |
b. | 例外的に、情報が患者自身の生命あるいは健康に著しい危険をもたらす恐れがあると信ずるべき十分な理由がある場合は、その情報を患者に対して与えなくともよい。 |
c. | 情報は、その患者の文化に適した方法で、かつ患者が理解できる方法で与えられなければならない。 |
d. | 患者は、他人の生命の保護に必要とされていない場合に限り、その明確な要求に基づき情報を知らされない権利を有する。 |
e. | 患者は、必要があれば自分に代わって情報を受ける人を選択する権利を有する。 |
8.守秘義務に対する権利
a. | 患者の健康状態、症状、診断、予後および治療について個人を特定しうるあらゆる情報、ならびにその他個人のすべての情報は、患者の死後も秘密が守られなければならない。ただし、患者の子孫には、自らの健康上のリスクに関わる情報を得る権利もありうる。 |
b. | 秘密情報は、患者が明確な同意を与えるか、あるいは法律に明確に規定されている場合に限り開示することができる。情報は、患者が明らかに同意を与えていない場合は、厳密に「知る必要性」に基づいてのみ、他の医療提供者に開示することができる。 |
c. | 個人を特定しうるあらゆる患者のデータは保護されねばならない。データの保護のために、その保管形態は適切になされなければならない。個人を特定しうるデータが導き出せるようなその人の人体を形成する物質も同様に保護されねばならない。 |
9.健康教育を受ける権利
すべての人は、個人の健康と保健サービスの利用について、情報を与えられたうえでの選択が可能となるような健康教育を受ける権利がある。この教育には、健康的なライフスタイルや、疾病の予防および早期発見についての手法に関する情報が含まれていなければならない。健康に対するすべての人の自己責任が強調されるべきである。医師は教育的努力に積極的に関わっていく義務がある。 |
10.尊厳に対する権利
a. | 患者は、その文化および価値観を尊重されるように、その尊厳とプライバシーを守る権利は、医療と医学教育の場において常に尊重されるものとする。 |
b. | 患者は、最新の医学知識に基づき苦痛を緩和される権利を有する。 |
c. | 患者は、人間的な終末期ケアを受ける権利を有し、またできる限り尊厳を保ち、かつ安楽に死を迎えるためのあらゆる可能な助力を与えられる権利を有する。 |
11.宗教的支援に対する権利
WMA総会で採択されたその他の宣言
リスボン宣言が第34回WMAの総会で採択される約30年前、1948年にはジュネーブ宣言が採択されています。
ジュネーブ宣言は医師としての倫理観を示したもの。どんな患者さんのことも差別せず、人命を最大限尊重することを誓っています。1968年の8月、1983年の10月、1994年の9月、2005年の5月に修正が行われ、2017年10月にWMAの総会で改訂が行われました。
1964年にはWMA総会でヘルシンキ宣言が採択されました。
人間を対象とする医学研究の倫理的な原則を示しています。採択後修正が重ねられ、2013年10月には改訂が行われました。
比較的新しいものでは、2008年にはプロフェッショナル・オートノミーと臨床上の独立性に関するWMAソウル宣言が採択されました。2018年10月には修正されており、医師主導の職業規範に関するマドリード宣言を再確認しました。
2009年にはマドリード宣言が採択されています。各国の医師に対して患者さんの利益のために一致団結して行動するよう要請した宣言です。
また、2019年にはUHCに関する東京宣言が採択されています。
UHCとはユニバーサル・ヘルス・カバレッジのこと。
UHCは全ての人々が経済的な困難がなく、十分な医療サービスを受けられることを意味しています。
UHCの実現に向け議論を行い、その成果がUHCに関する東京宣言として取りまとめられました。
リスボン宣言と法律の関係
ですが、日本国憲法第13条では自己決定権を保障しています。
医療に置いても自己決定権は同様に存在し、どのような医療を受けるのか、拒否するのかは治療を受ける側が有しています。
海外では法律として定められている国もあり、日本でも「医療基本法」 として患者の権利を法律化する動きがあります。
まとめ
リスボン宣言は、医療の基本となる考え方です。
リスボン宣言は患者さんの権利に関する宣言として知られていますが、これ以前にもジュネーブ宣言やヘルシンキ宣言といった、医師の倫理観を規定する宣言が採択されています。
患者さんの権利は、守られなければならない非常に重要なものです。
看護師は患者さんの代弁者として、患者の自己決定権のサポートに努めましょう。







