診療看護師とは?資格の取り方や給与、やりがいについて解説

看護師として入職したばかりの頃は、仕事を覚えるので精一杯ですが、5年・10年と勤めるうちに「もっと患者さんにより良い医療を提供できないだろうか?」と考えるようになる人は少なくありません。そのときの選択肢のひとつとして挙げられるのが、「診療看護師」です。
診療看護師とは、いったいどのような役割を持った看護師なのでしょうか?資格の取り方や給与、仕事のやりがいについても解説します。
診療看護師とは
医師の指示に基づく一定の診療行為が行える看護師
「診療看護師」(Nurse Practitioner/NP)とは、看護師としてのスキルに加えて初期医療の知識や技術も身につけ、医師の指示に基づく一定の診療行為が行える看護師のことを指します。豊富な臨床経験を持つ看護師が、大学院の修士課程で医学の知識や特定の医療業務の実践を学び、民間資格を得ることによって診療看護師として活動することができます。
患者のQOL向上のために医師や多職種と連携して活動
診療看護師の制度は、地域医療を円滑に行い、地域包括ケアを促進することを目的に導入されました。患者さんのQOL向上のために医師や多職種と連携・協働し、倫理的かつ科学的根拠に基づいた一定レベルの診療ができる看護師として、いまさまざまな医療施設で活躍しています。
今後はナース・プラクティショナーの国家資格ができる可能性もある
診療看護師は日本では民間資格ですが、アメリカのナース・プラクティショナーは上級の看護師として一定レベルの診断や治療ができ、臨床医と看護師の中間職として位置づけられています。
日本看護協会も、アメリカのナース・プラクティショナーに相当する看護の国家資格を設けるべく、働きかけています。今後は日本にも、一定レベルの診断・治療を行える中間職の看護師さんが、活躍することになる可能性が高いでしょう。
診療看護師と一般看護師の違い
診療看護師と一般看護師の大きな違いは、医師の職域である診療行為を行えるか否かということにあります。一般看護師は医師のような診療行為はできませんが、診療看護師は医師の指示のもとで、一定の範囲内の診療行為(特定行為)を行うことができます。
診療看護師と特定看護師の違い
特定看護師とは、「特定行為に係る看護師の研修制度」(特定行為研修)を受けることによって、厚生労働省が認定する特定行為(21区分38行為)の実施を許されている看護師さんの事です。
診療看護師も特定看護師も、特定行為を実践できるという点においては同じです。しかし、診療看護師は特定行為を行えるだけでなく、患者さんを治療と看護の両面で捉えながら相対的医療行為(医師の指示のもとで看護師が行える医療行為)を実践できるように教育を受けています。そのため、医師の指示を受けながら独自の診断や治療計画を立案するなど、診断や治療に関わる複雑なケアを行うことができます。
診療看護師になるには?
5年以上の実務経験が必要
診療看護師の資格を得るためには、看護師免許を取得した後、5年以上の看護実務経験を積む必要があります。
大学院修士課程を修了し、認定試験に合格する
診療看護師を要請する日本NP教育大学院協議会が認める「NP教育課程」を有する大学院に進学し、必要な単位を取得して修了後、本協議会が実施するNP資格認定試験に合格する必要があります。
診療看護師の仕事内容
診療看護師は一般的な看護業務以外にも、看護現場のリーダー的な存在としてさまざまな業務を行います。
問診や初期診療などの「相対的医行為」を行う
医行為には医師のみが行う「絶対的医行為」と、医師の指示・監督のもとに看護師が行うことができる「相対的医行為」があります。診療看護師は疾患の基礎知識や治療内容などについて専門的な教育を受けているため、患者さんの病状をタイムリーに捉え、問診や初期診療、検査結果の評価といった相対的医行為を的確に行うことができます。
医師の過重労働が問題視される中、診療看護師が医師に代わって医行為を行える環境をつくることは、医師の働き方を改善する上でも重要です。
医師の指示のもと手順書に沿った「特定行為」を行う
診療看護師は、医師の職域である医行為の中で、厚生労働省が「特定行為」(21区分38行為)と定めたものに関して、医師の指示のもと手順書に沿って行うことができます。看護師が行える特定行為には、たとえば心嚢ドレーンの抜去、胃ろうカテーテルの交換、経口用気管チューブの位置の調整などがあります。
【出典】特定行為区分とは(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000050325.html
患者の治療に関する医療計画を作成する
診療看護師はクリニカルパスやリハビリプランなど、患者の治療に関する医療計画を、医師と相談した上で作成します。
看護スタッフの教育・育成を行う
診療看護師は、より質の高い医療を提供するために、看護スタッフの教育・育成を行う役割があります。診療看護師は看護の豊富な知識と経験があり、大学院で医学の知識も学んでいるので、看護師さんの教育を行うには最適な存在です。
医師や看護師、多職種との連携役となる診療看護師は治療と看護の両方の知識を身につけているため、医師と看護師の連携役となって、業務がスムーズに進むようにサポートします。
また、多職種と横断的に関わってその仲介役となり、お互いの情報を共有する架け橋となるのも、診療看護師の大事な役目のひとつです。
診療看護師の給与
診療看護師の資格を取ると、病院によっては資格手当を支給するケースがあり、その場合は一般の看護師よりも給与が高くなります。資格手当は勤務する医療施設や勤続年数などによっても違いますが、一例を挙げると国立病院機構の資格手当は月額6万円(年間72万円)です。
厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、看護師の年収は約508.1万円なので、診療看護師になった場合はそれよりも年収が数十万円高くなる可能性があると考えていいでしょう。
【参考】令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2022/
診療看護師の仕事のやりがい
チーム医療のキーパーソンとなれる
診療看護師は、院内を横断的に活動することによって、看護・診療・多職種をつなぐキーパーソンとして活躍することができます。チーム医療の充実に貢献している実感が得られ、部署を超えたさまざまな職種の人との信頼関係を築くことができます。
一人の患者さんを一貫して診ることができる
診療看護師は、医師と共に患者さんの移動に合わせて部署を超え、入院から退院まで一人の患者さんを一貫して診ることができます。患者さんにより良い医療・看護を提供するにはどうしたらいいかを、各部署の看護師さんと話し合いながら工夫していくことに、やりがいを感じられます。
看護スタッフへの教育を通じて、看護の質の向上に貢献できる
豊富な看護の臨床経験を持ち、大学院では解剖学や薬理学など、より深いレベルで病態や治療を学んだ診療看護師は、看護スタッフを教育するにはまさに適任です。自身の経験と知識を活かして積極的に看護師の教育・育成を行うことで、看護の質の向上を実感でき、それが大きなやりがいにつながります。
まとめ
診療看護師は診察と看護の両方の視点を持って仕事に臨めるため、医療の現場ではとても頼りがいのある存在として、活躍することができます。患者さんが少しでも早期回復できるよう、病態を深く理解してベストなタイミングで治療介入を行えるようサポートするのも、診療看護師の腕の見せどころです。
看護師として長く働き続ける上で、診療看護師の道を選ぶことは、職場への貢献になるとともに大きな自己成長にもつながるでしょう。






