「クリニック」と「病院」は、いったいどこが違うのでしょうか?規模の大きさや設備の充実度が違うのはもちろんですが、それ以外にもクリニックと病院では、法律にも明記されているほど役割がはっきりと分かれています。
また、看護師さんの働き方や待遇、キャリアパスなどの面においても、クリニックと病院では違いがあります。この記事では、クリニックとは何なのか、病院と何が違うのか、クリニックで働く看護師さんのメリット・デメリットは何かなどについて、ご紹介しましょう。
クリニックとは?
「クリニック」とは、診療所のことで、主に外来患者を診察する医療施設を指します。病気の治療だけでなく、健康診断や予防注射など、患者さんの健康を守るための医療サービスを提供します。さらに在宅介護や家庭看護のアドバイスも行うなど、地域の人々が健康に暮らすためのさまざまなサポートを行うのが、クリニックの役割です。
クリニックが患者さんの窓口になり、病院を紹介する
クリニックと病院を使い分ける際に、患者さんの中には「重い症状が出たら病院に行き、軽いときはクリニックに行く」と考えている人もいるのですが、本来それを決めるのは患者さんではありません。
救急搬送のような特別な場合を除き、基本的には患者さんのことを熟知しているかかりつけ医が窓口になり、必要に応じて病院を紹介する」というのが、正しいルートです。
紹介状なしに病院に行くと、追加料金がかかる
クリニックで治療できない患者さんがいた場合に、かかりつけ医は病院に「紹介状」を書きます。患者さんはそれを持って病院に行き、所定の治療を終えた後、またかかりつけ医のもとに戻ってくるという仕組みになっています。
クリニックの紹介状なしに大病院を受診すると、診察料以外に初診で5,000円(歯科は3,000円)以上、再診では2,500円(歯科は1,500円)以上の料金がかかるので、注意しましょう。
クリニックと病院の違い
「クリニック」と「病院」は、患者さんを診るという点では同じですが、そもそもの役割が違っています。クリニックが地域の患者さんの主治医であるのに対して、大病院は救急や重い症状の患者さんを、高度な設備を使って専門的に治療する役割を担っています。クリニックと病院の違いは、下記のように法律で定義されています。
病院は入院患者の病床が20床以上、クリニックは19床以下
医療法によって、病院は20床以上の入院施設を持つ医療機関と定められています。それに対してクリニックは、無床または19床以下の入院施設を有するものとなっています。
病院は医師の数が3人以上、クリニックは定義なし
病院は医師の数が3人以上、看護師が患者3人に対して1人、薬剤師が1人以上と定められています。それに対してクリニックには、特に決まりがなく、医師がいなくてもクリニックを開院することができます。
地域包括ケアにおける、クリニックと病院の役割の違い
「地域包括ケアシステム」の構築によって、クリニックと病院の役割の違いは、ますます明確になりつつあります。いま病院とクリニック・自治体・介護施設などが連携をとり合って、地域の人々が高齢になっても安心して暮らせる仕組みづくりに取り組んでいます。
その中で、地域医療のリーダーとして重要な存在となるのが、クリニックです。大病院がより高度で専門的な医療に特化していく一方で、クリニックは訪問看護師や介護分野の人々と横のつながりをとりながら、地域医療をスムーズに進めていく役割があります。
クリニックと病院、看護師が働く環境の違い
仕事内容
病院の看護師の仕事は、医師の診察補助や入院患者のケアといったように、看護の専門的な業務が中心です。
それに対してクリニックの看護師は、専門の看護業務以外に、掃除や事務仕事といった雑用も伴います。患者さんとのコミュニケーションも重要な業務のひとつで、クリニックによっては看護師が受付業務を行う場合もあります。
残業・夜勤・休日出勤
病院の看護師は総体的に残業が多く、病棟看護師は夜勤もあり、人手不足の病院では休日出勤もあります。
それに対してクリニックは日勤のみで休日も決まっているので、夜勤や休日出勤は基本的にありません。残業も少なく、定時に帰れるクリニックが数多くあります。ただし人気のあるクリニックの中には、診療時間が終了しても患者さんが大勢残っていて、残業が慢性化しているところもあるので注意しましょう。
年収
年収に関しては、病院よりもクリニックの方がかなり低くなります。厚生労働省の調査によると、病院の看護職員と診療所(クリニック)の看護職員の年収差は、以下の通りになります。
キャリアパス
病院の看護師とクリニックの看護師では、キャリアの道筋がだいぶ違ってきます。病院の看護師として経験を積むと、専門看護師や認定看護師の資格を取ってスペシャリストとして活躍したり、看護師長や看護部長のように看護管理者として活躍することもできます。人によっては看護師の育成に興味を持ち、看護学校の教育者になる人もいます。
一方、クリニックの看護師の場合は、特別にキャリアアップの道筋は用意されていません。役職に就くというよりも、地域医療の中でなくてはならない存在になっていくことが、仕事のやりがいにつながるでしょう。
看護師がクリニックで働くメリット&デメリット
メリット
プライベートと両立できる
クリニックの勤務は日勤のみで、日曜日が休みのところも多く、プライベートと無理なく両立させることができます。
自宅の周辺にあるので通勤が楽
クリニックは大病院と違って自宅の周辺にあるので、通勤の負担も少なくて済みます。
難しい仕事やリスクの高い仕事が少ない
クリニックは基本的に地域のかかりつけ医なので、重篤な患者さんはほとんど来院せず、看護師も大きな責任を伴わないのでストレスなく働くことができます。難しい治療も少ないため、勉強会に頻繁に参加するといった負担もありません。
デメリット
病院よりも収入が少ない
クリニックの看護師の収入は病院よりもだいぶ少なく、看護師長になって高収入を得るような、キャリアアップの道も用意されていません。収入ではなく、地域に貢献することに喜びを感じられる人に、向いている職場です。
掃除や事務作業などの雑務が多い
小規模のクリニックは、掃除から備品の購入、受付、事務作業まで看護師がやるところもあり、雑務が多いことに不満を感じている人もいます。
勉強の機会が少ない
クリニックの看護師は、注射や点滴以外の医療行為が少ないため、病院のように勉強会などに参加する機会があまりありません。そのため、スキルアップしたい人にとっては、クリニックは物足りないでしょう。
クリニックの看護師は、どんな人に向いている?
クリニックの看護師は、バリバリ働いて稼ぎたい人やキャリアアップしたい人というよりも、看護を通して地域に貢献したいという思いを持つ人に向いています。ワークライフバランスを大切にし、家庭的な雰囲気の中で長く働きたい人にとっては、最適な職場でしょう。
重篤な患者さんを看護することもないので、大きなミスをするリスクも少なく、患者さんを看取ることもありません。看護師としてのハードな場面をあまり経験することなく、毎日地域の患者さんたちと接しながら、温かい雰囲気の中で仕事をすることができます。
看護師がクリニックで働くやりがい
地域医療に貢献できる
クリニックは地域に溶け込んだ医療施設なので、お子さんから高齢者まで、さまざまな年齢層の人々に頼りにされる存在としてやりがいを持って働けます。予防の観点からも、健康診断や予防注射などを通して地域に貢献できます。
患者さんとの距離が近い
クリニックは待合室の患者さんとコミュニケーションをとるなど、患者さんとの距離が近く、顔見知りの患者さんと長いお付き合いができます。旅行から帰った患者さんがお土産を持ってくるなど、温かい人間関係が築けるのも、クリニックならではでしょう。
責任をもって仕事を任される
クリニックは少ないスタッフで対応するため、一人ひとりが責任ある仕事を任されるため、自分が職場の重要な存在であるという自覚をもって業務に臨むことができます。
クリニックに転職するときに押さえておきたいポイント
院長の人柄がよく、マネジメント能力のあるクリニックを選ぶ
クリニックは院長が経営をしているため、院長の人柄と経営センス次第で、看護師さんの居心地も大きく変わってきます。そのため、院長がどんな人か、スタッフマネジメントの能力があるかといったことは、転職を考える上で重要なチェックポイントといえるでしょう。
自分に向いている診療科を選ぶ
ひと言でクリニックといっても、診療科によって仕事内容も職場の雰囲気もかなり違います。たとえば小児科は、常に子どもたちが院内に一杯いて、ワサワサと忙しい状態なので、子ども好きで機転の利く看護師さんに向いています。逆に美容クリニックなどは、美しくなりたい大人の女性が多いので、営業的なセンスのあるコミュニケーション能力の高い看護師さんに向いています。
他にも耳鼻科や眼科、整形外科など、診療科によってそれぞれカラーが違うので、見学などもしながら自分の性格や適性を考えて選ぶことが大切です。
社会保険や福利厚生、退職金、産休育休についてもチェック
クリニックは病院と違って小規模なので、社会保険を完備していないところも少なくありません。社会保険が必要な人は、まずそこをしっかりと確認しておいた方がいいでしょう。
また、院長は医療の専門家ではあっても、経営の専門家ではないので、スタッフマネジメントに慣れていないケースもあります。福利厚生や退職金、産休・育休、人事評価といった制度面が充実しているかどうかを、しっかりと調べた上で転職を検討しましょう。
まとめ
クリニックと病院では、地域における役割が違い、仕事内容や働き方、待遇面もかなり違います。クリニックの看護師には夜勤や休日出勤がありませんが、その反面年収が低く、管理者やスペシャリストへのキャリアアップの道もありません。一方病院の看護師は、年収は高いのですが、残業や夜勤があって仕事もハードで、ときには家庭を犠牲にすることもあるかもしれません。
転職を考えるときは、その点を詳しく調べて、自分に最も合った医療施設に勤めることをおすすめします。まずは自分が5年後・10年後にどうなっていたいかをイメージし、妊娠・出産といったライフイベントも踏まえながら、ベストのキャリアプランを選択しましょう。