1.学会認定・自己血輸血看護師の資格とは
自己血輸血とは他人の同種の血液を使用するのではなく、あらかじめ患者自身の血液を保存しておき、手術の際に輸血が必要となった場合にはその血液を利用することをいいます。
自己血輸血は「希釈法」「回収法」「貯血法」の3種類の方法によって行われていますが、看護師なら誰でも正確に行えるわけではありません。
学会認定・自己血輸血看護師とは、そういった自己血輸血に関して豊富な知識を持ち、適正かつ安全に処置を行う看護師のことをいいます。 この資格は日本自己血輸血学会と日本輸血・細胞治療学会が合同で認定を行っています。
全国的にみて自己輸血血看護師の数はどれくらいいるのでしょうか。
一般社団法人 自己血輸血・周術期輸血学会のホームページによれば、現在自己血輸血看護師の数は717名となっており各都道府県に1人は資格取得者が活躍しています。もっとも多い地域ですと鹿児島県の65人ですが、地域によってその差は大きく広がっているのが現状です。
2.学会認定・自己血輸血看護師はどんな仕事?
他人の血液を輸血すると感染症などの副作用が起こる場合があります。 このことから自己血輸血を行うケースが多くなっていますが、その際に適切な採血を行うのが学会認定・自己血輸血看護師の仕事です。 採血時の細菌汚染や血管迷走神経反射などの危険を回避することが重要な役割となっています。 手術を円滑に進めるためにも学会認定・自己血輸血看護師の迅速な行動が求められているのです。
3.学会認定・自己血輸血看護師になるには
では実際に、どのような手順で学会認定・自己血輸血看護師を取得していくのでしょうか。必要な条件と取得までの流れについて解説していきます。
【受験資格】
学会認定・自己血輸血看護師になるためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。 <受験者個人の必須条件> ●日本自己血輸血学会あるいは日本輸血・細胞治療学会の会員であること ●臨床経験が2年以上ある看護師であること(准看護師の経験を含んでもよいですが、現在准看護師の方は受験できない) ●1年以上の自己血輸血業務経験があること ●30例以上の自己血輸血実施症例があること ●日本自己血輸血学会教育セミナーまたは自己血輸血看護師制度協議会指定セミナーを受講し、受講証明書を1部以上取得していること ●必須参考書を保有していること(※1) <所属施設の必須条件> ●日本自己輸血血学会 貯血式自己血輸血実施指針(2020)を順守していること ●日本自己血輸血学会あるいは日本輸血・細胞治療学会の会員である自己血輸血担当医師がいること (※1)必須参考書に関しては、その時々によって改訂中の場合もあるため、適宜『日本自己輸血血学会のホームページ』を確認しておきましょう。 【取得までの流れ】
つぎに、資格取得までのおもな流れについて説明していきます。項目ごとに注意すべきポイントがありますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
『STEP:1 認定試験受験申込』
まずは日本自己血輸血学会のホームページにてweb申請を行う必要があります。 申請前には構成2学会どちらかの会員になっており、受験申請費用(10,000円)を振込んでいなければなりません。
申請時に必要な書類は以下のとおりです。
・申請書
・施設長または所属長、自己血輸血責任医師の推薦状
・自己血輸血業務経験証明書
・日本自己血輸血学会教育セミナーまたは自己血輸血看護師制度協議会指定セミナー受講証明書の写し
・看護師または准看護師免許証の写し
(准看護士の場合、臨床経験が2年に達しない方のみ提出)
・受験申請費用(10,000円)振込票の写し
とくに申請書を記載する際は、職歴の書き方に注意が必要です。過去に就職した施設が3か所未満の場合、退職、休職、または助産師学校や大学院などへの進学など、すべて記載しなければなりません。
書類不備や記載漏れがあった際は、審査に通過できませんので必ず漏れがないか送付前に確認しましょう。
『STEP:2 資格審査』
必要書類を送付すると事務局において資格審査が行われます。資格審査に合格すると申請手続きが完了します。
その後、資格審査結果通知のメールと受験票が送付され、資格審査に合格された方は合同研修費用(15,000円)と筆記試験受験料(10,000円)を振込む必要があります。
『STEP:3 研修・認定試験』
認定試験を受験するためには、必ず合同研修を受けなければなりません。
認定試験は、おもにマークシート形式の一般問題と小論文記述問題のほか臨床問題で構成されており、指定参考書またはカリキュラムの全範囲から出題されます。
合格発表はメールと文書によって本人に通知され、後日認定証が発行されます。
※現在、認定試験は新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点からWebにて行われています。
Web試験の詳細については、ホームページをチェックするようにしましょう。
【更新について】
資格取得後は、5年ごとに更新をしなければなりません。 更新時には、更新費用(10,000円)を入金し、さらに以下の条件をすべて満たす必要があります。 <更新条件> ・認定期間内の5年間に日本自己血輸血学会学術総会または日本輸血・細胞治療学会総会に1回以上参加し、参加証を保有していること ・認定期間内の5年間に教育セミナーを受講するなどして30単位以上を取得し、受講証明書や参加証を保有していること 申請書の作成、書類の提出方法はメールまたは電子入力にて手続きを行うことが可能です。 詳細については、『学会認定・自己血輸血看護師 認定更新手続きについての注意』をご覧ください。 4.学会認定・自己血輸血看護師をとるのは難しい?
自己血輸血看護師の資格を取るにはどれくらいの難易度となっているのでしょうか。実際に、過去5年間の看護師の合格率をみてみましょう。
■過去5年間の看護師の合格率
| 申請者数 | 受験者数 | 認定者数 |
第17回 | 40名 | 38名 | 38名 |
第18回 | 20名 | 18名 | 18名 |
第19回 | 51名 | 51名 | 51名 |
第20回 | 23名 | 23名 | 23名 |
第21回 | 39名 | 39名 | 39名 |
自己輸血血看護師は、書類審査、合同研修、筆記試験の結果を総合して合否判定が行われます。筆記試験の合格ラインは60点以上と比較的低めに設定されています。過去のデータ(※2)を見てみると認定試験を受験した方のすべてが認定を受けていることがわかります。
出題範囲が公表されており、輸血に関する参考書が事前に指定されていることから、この資格の難易度はそれほど高くないといえるでしょう。
5.学会認定・自己血輸血看護師をとることのメリット・デメリット
受験申請費用や合同研修費用を合計すると40,000円。さらに、現在は一時的にWeb試験を導入しているため宿泊費、交通費の負担はかかりませんが、今後の状況によっては従来の試験形式に戻す可能性があります。そのため、これらの費用を踏まえると人によっては100,000円以上の費用が必要となってしまいます。
しかし、それ以上に資格取得によるメリットは多くあります。 資格取得をするうえで身についた技術や知識は一般の看護師にはできないことであり、輸血や採血をする際の出血や細菌汚染などのリスクを抑えることが可能です。 また、採血の知識が豊富であれば献血施設で働くという道も開け、今後のキャリアアップに繋がるのはこの資格の魅力の一つでもあります。
6.学会認定・自己血輸血看護師の現状と今後
輸血や採血の基本的な取扱いは看護師であれば誰でもできます。 しかし、自己血輸血に関する専門的な教育を十分に受けている看護師は少なく、安全性も確保できないという状況が過去にありました。
そこで誕生したのが学会認定・自己血輸血看護師の資格です。
年々、自己血輸血に対する理解は徐々に浸透してきていますが、それでもまだ専門的知識やスキルをもつ看護師の数は少ないのが現状です。 自己血輸血にも細菌感染のリスクはあるため、より安全に適切な輸血をするためにも取っておきたい資格となっています。