1.救急救命士の資格とは
救急救命士とは、搬送中の救急車などで心肺停止などの緊急を要する事態が起こった際、医師の指示のもと救急救命処置を行うことを目的とした、厚生労働省が認定する国家資格です。
出動指令があればすぐに現場へ駆けつけ、傷病者の容態が手遅れにならないよう、最善を尽くした医療処置を行います。
“特定行為”と呼ばれる、医師の指示のもと救急救命士が施すことが出来る医療行為が、平成26年4月1日から拡大されました。
このことから、今後救急救命士に対する更なる活躍が期待されています。
2.救急救命士はどんな仕事?
救命救急士は、おもに救急車などに同乗し傷病者への応急処置や観察を行い、医療機関まで搬送するのが仕事です。未資格の救急隊員では行えない、下記の特定行為を傷病者へ施すことが出来ます。
(1)器具を用いた気道確保
(2)静脈路の確保
(3)薬剤投与
(4)心臓機能停止ではない重症傷病者に対する静脈路確保と輸液(平成26年4月より)
(5)血糖測定および低血糖状態になった傷病者に対するブドウ糖溶液の投与(平成26年4月より)
救命救急士は、災害などで多数の傷病者が発生した際に、緊急性や重症度によって搬送および処置の優先順位を選別・決定することが出来ます。
次に、看護師と救急救命士の仕事内容の違いについてです。
-看護師の場合-
患者さんのサポート・ケアなど、安心して入院生活を送れるよう援助・看護することや、点滴や薬剤の投与、手術の際は執刀医の助手の役割をするなど、その内容は多岐にわたります。
-救急救命士の場合-
心肺機能停止などの一分一秒をあらそう状態の重篤な患者の対応も扱います。
そういった傷病者には蘇生などの応急処置を行いながら、医療機関へ搬送します。
3.救急救命士になるには
では実際に、どのような手順で救命救急士を取得していくのでしょうか。必要な条件と取得までの流れについて解説していきます。
【受験資格】
救命救急士になるためには、以下の条件のうちいずれかを満たす必要があります。
●大学または専門学校の救急救命士養成校(2年制)の研修を修了した方
●大学で1年以上、公衆衛生学をはじめとした13科目を修了し、養成校で1年間の課程を修了した方
●医科大学で公衆衛生学や臨床実習などを修了した方
●消防署で救急隊員として2000時間または5年間の出動を要し、その後、養成校で1年間の課程を修了した方
●看護師資格を取得しており、1・2・3・4と同等以上と認定をされた方
【取得までの流れ】
救命救急士を目指す場合、一般の大学・短大・専門学校を卒業された方、養成課程のある大学・専門学校を卒業された方のほか、すでに看護師資格をお持ちの方の場合とそれぞれ取得方法が異なります。
ここではおもに、看護師資格をお持ちの方を対象に資格取得までのおもな流れについて説明していきます。項目ごとに注意すべきポイントがありますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
≪看護師が救急救命士の資格を取得する場合の注意事項≫
看護師が救命救急士を目指す際に、注意しなければならないのが “いつ看護師資格を取得したか” ということです。
平成3年8月15日までに看護師の資格を取得している方の場合、救急救命士の資格も取得していることとなります。一方、それ以降で看護師の資格を取得された方の場合、養成校で2年以上の研修を修了し、救命救急士国家試験に合格しなければなりません。
※ただし、すでに履修したことがある科目については免除されます。
『受験願書の提出』
上述のとおり、平成3年8月15日以降に看護師資格を取得された方は、救命救急士の国家試験を受ける必要があります。必要書類をすべて用意し、一般財団法人 日本救急医療財団に提出します。
【必要書類】
・受験願書
・証明写真
・各校の卒業証明書または見込み証明書
・受験料(30,300円)
ほか
必要書類の詳細につきましては、厚生労働省のホームページより確認しておきましょう。
▶厚生労働省『救急救命士国家試験の受験資格認定手続きについて』
『国家試験』
必要書類をすべて提出し、受理されたあとはいよいよ国家試験となります。
救命救急士の国家試験は年に1回。おもに筆記試験となり、試験時間300分、計200問のマークシート形式で出題されます。
≪試験科目≫
■基礎医学(社会保障、社会福祉、患者搬送など)
■臨床救急医学総論
■臨床救急医学各論Ⅰ(臓器器官別臨床医学)
■臨床救急医学各論Ⅱ(病態別臨床医学)
■臨床救急医学各論Ⅲ(特殊病態別臨床医学)
また、日本救急医療財団のホームページには救命救急士国家試験の出題基準が公表されています。より詳細な出題範囲を知りたい方は必ずチェックしておくようにしましょう。
『資格の交付と登録』
救急救命士の試験に合格したあとは、登録申請により救急救命士名簿に登録をすることで、免許証が交付されます。申請を行わず登録される前に業務に従事した場合、行政処分の対象になるので注意してください。
■登録手数料:6800円
■登録免許税:9000円
4.救命救急士をとるのは難しい?
救命救急士の資格を取得するのはどれくらい難しいことなのでしょうか。
一般財団法人 日本救急医療財団が発表した、過去5年間の合格率を比較してみましょう。
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
---|---|---|---|
第40回 | 3,031人 | 2,576人 | 85.0% |
第41回 | 3,015人 | 2,562人 | 85.0% |
第42回 | 3,015人 | 2,854人 | 91.9% |
第43回 | 2,960人 | 2,575人 | 87.0% |
第44回 | 2,999人 | 2,599人 | 86.7% |
(引用:一般財団法人 日本救急医療財団『国家試験』より)
救急救命士の試験合格率は、例年80%以上を維持しています。看護師の国家試験と比べると少し低めではありますが、割合、高めの合格率となっています。
養成校で研修と実習を真面目に取り組み勉強していれば、さほど難しくはないようですが、医学知識や治療技術に関する問題が大半を占めるので、傾向と対策をしっかりと行う必要があります。
5.救急救命士をとることのメリット・デメリット
救急救命士は搬送中に特定行為での応急処置が可能ですが、法律で救命救急士が許可されていない処置も、看護師であれば状況を判断したうえで施すことが可能な場合も少なくありません。つまり、早期治療を行うことで重篤な後遺症を残さず、結果患者さんの命を救う確率もあがるということです。
近年、こうした実践的な活躍を目標とし、看護師および救急救命士ふたつの資格保有者が増えてきました。
また、看護師と救命救急士のダブルライセンスを取得しているということは、それだけ通常の看護師よりも高い評価を得られる可能性があります。給与、待遇面でのランクアップを目指す方に救命救急士はおすすめです。
一方デメリットとしては、救命救急士は病院または診療所に搬送されるまでの間かつ、許可された範囲での処置しかできないということです。看護師資格のみでも救急車に同乗することは可能ですし、救命救急士はあくまで消防に勤めている場合に限りその真価が発揮されます。
病院内勤務を希望するのであれば、救命救急士よりも認定看護師を取得するといったケースも少なくありません。
6.救急救命士の現状と今後
救急救命士は、2011年の東日本大震災を皮切りに、その存在が世間に多く知られるようになりました。
ここ数年で被害が多発している地震や洪水被害など、自然災害が多い日本では需要の高い資格といえるでしょう。救命救急士としてできることは“少しでも長く患者さんの命をつなぎとめる”ということ。看護師の方が救急救命士の資格をもって働く場合、病院での勤務の時よりもさらに最前線での現場で働くことになります。
現在、救急救命士の資格登録者数は約64,000人(※1)。令和元年において、救急出動件数は663万件を超える結果となっています(※2)。災害に加えて新型コロナウイルスによる影響も重なり、救命救急士の人数は決して足りているとはいえないのが現状です。
ですので、救急救命士と看護師、どちらの資格も有する方が今後更に必要な存在となることでしょう。
(※1 一般財団法人 日本救急医療財団『免許登録等の案内 4.免許登録者数』より)
(※2 総務省 『「令和2年版 救急・救助の現況」の公表』より)
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