病院で働く人のイメージは医師や看護師、理学療法士や薬剤師といった職業の方々が思い浮かびますよね。
当然、その方々だけでは病院の運営は進みませんので医療事務の助けが必要となります。
その医療事務の中でも看護師資格が無いと取得できない資格があります。
それが診療情報管理士です。
診療情報管理士はカルテや看護記録、検査記録を管理・分析・活用する情報のエキスパート。
今回はその診療情報管理士についてまとめました。
1.診療情報管理士の資格とは
診療情報管理士とは、患者さんの診療内容や検査記録をまとめた診療録(いわゆるカルテ)を正しく管理し(データベース化)、そのカルテを分析することで病院の経営や医療の質、安全を高める医療情報のスペシャリストです。
診療情報管理は、世界保健機関(WHO)が定めている国際疾病分類、ICD-10に沿って管理しています。
全世界共通の分類で管理することで、国ごとの疾病の状態、年齢、性別などで比較研究でき、医療の進歩を手助けしています。
診療情報管理士の資格自体は民間資格であり、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会の4団体と医療研修推進財団が資格を認定しています。
2.診療情報管理士の役割
診療情報管理士の役割は先述した通り、カルテのデータベース化と分析、活用です。
カルテや検査記録に不備や誤記載があってはいけませんが、そのチェックを行うのが診療情報管理士の業務です。
本来は医師が打ち込む必要がある電子カルテも診療情報管理士が行うことが多く、重要な業務になっています。
これは2000年の診療報酬改定によって、診療録管理体制加算が新たに設置されたことが、診療情報管理士に対する重要性を高めるきっかけとなりました。
診療報酬加点としては、診療録管理体制加算1は100点、診療録管理体制加算2は30点を計上できます。
診療録管理体制加算を行うには、診療情報管理士資格を所持している必要性はありませんが、専任で診療記録管理者を置く必要がありますので、結果的に診療情報管理士が行っていることが多いようです。
3.医療事務との違い
診療情報管理士も広義では医療事務に当たります。
とくにカルテの打ち込みは医療事務の病棟クラークでも行っています。
医療事務と診療情報管理士の最大の違いは、患者さんの受付や医師の業務補助を行う医療事務に対して、診療情報管理士はカルテのデータ管理や病名のコーディングなどを専門的に管理できる点です。
診療報酬の加算でも、診療情報管理士は診療録管理体制加算として活躍できますが、医療事務ではあくまで医師事務作業補助者での加点となります。
医療機関における情報処理の職自体は、資格を持たない方でも就くことができます。
しかし、電子カルテの管理や病院の経営に関するほか、診療行為の正確性など、より専門的な知識を必要とする仕事に就くためには、診療情報管理士の資格はとても有用性の高い資格となります。
4.診療情報管理士の資格をとるには
診療情報管理士の資格を取得するためには、大きく分けて2通りの方法があります。
1,大学、短大、専門学校を卒業し、2年生通信教育を受けて診療情報管理士の試験を受ける
2,日本病院会認定の大学・専門学校を卒業し、診療情報管理士の試験を受ける
ひとつ目の方法は、医師や看護師の資格を持たず1から診療情報管理士の資格取得を目指す場合となります。その際には、一般社団法人 日本病院会が実施する『通信教育』を受講しなければなりません。
通信教育を受けるにあたって、必要となる条件は以下のとおりです。
【条件】
・原則として2年制以上の短期大学または専門学校以上を卒業している方
※ただし現在病院に勤務している方は、高校卒業でも受講可能
・医師や看護師など、特定の資格を持つ方は専門課程の編入が可能
短期大学や専門学校に通っていない方でも、現在病院に勤務していれば通信教育を受けることは可能です。では次に、通信教育の内容についてみてみましょう。
【申し込みから認定試験までのスケジュール】
診療情報管理士の通信教育は実施日より約2か月前から申し込みが開始されます。
申し込みをしたのち受講通知がメールにて届いたら、先に受講料(2年間22万円、編入の場合11万円)を納入します。納入が確認されるとIDとパスワードを発行し、後日郵送にて教材が送られて、授業はeラーニングにて受けることが可能です。
全体のカリキュラムはおもに『基礎課程』と『専門課程』の2つで構成されており、どちらも1年ほどかけて単位を取得していきます。
・基礎課程
医療概論、人体構造・機能論、臨床医学各論Ⅰ~Ⅷ、医学・医療用語の計12科目。
臨床医学の基礎となる内容について学びます。
・専門課程(基礎課程免除)
医療管理総論、医療管理各論Ⅰ~Ⅲ、保険医療情報学、医療統計1・Ⅱ、医療情報管理Ⅰ~Ⅲ、国際統計分類Ⅰ・Ⅱの計12科目。医療保険や介護制度、病院の管理や統計理論について学びます。
すでに医師、看護師などの国家資格をお持ちの方は『編入制度』といい、専門課程から授業を受けることができます。
診療情報管理士の試験内容
診療情報管理士の試験は、通信教育で学んだ『基礎課程』『専門課程』と『分類法』の3つで構成されています。
とくに分類法に関しては、疾用ICD-10コーディングや処置のICD-9CMコーディングのほか、手術、検査について出題しています。出題方法はマークシート方式。多肢選択と一部記入式となっており、どの資格を持っていても必ず受けなればなりません。
試験の合格率
令和3年(2021年)の2月におこなわれた診療情報管理士試験の結果は、受験者総数2,800名のうち合格者は1,748名。合格率は62.4%と決して油断できない数字となっています。
診療情報管理士になるためには7,000を越えるICD-10を知っている必要性や、そこに行き着く病状、医学用語などを幅広く勉強するため、民間資格ではありますが難易度の高い資格です。
しかし実際には、医療資格を持たずに受験資格を得て受けている受験生も多く、看護師資格を有している方であれば、そこまで取得が難しい資格では無いとも言われています。
参考(一般社団法人 日本病院会『診療情報管理士通信教育(募集要項)』)
診療情報管理士に向いている人
診療情報管理士は、患者さんの治療録や検査記録など、個人情報を取り扱うことから責任感のある人に向いている仕事です。また、医師や看護師などの医療従事者と連携して業務をこなす必要があり、ある程度のコミュニケーションや協調性が求められることも少なくありません。
そしてなにより、情報を正確にデータ化しなければならないことから慎重さや精密さを求められる仕事といえるでしょう。
さいごに
現時点で診療情報管理士を持っているからといって、就職・転職に有利になることは余りないかもしれません。
しかし、政府が進めている電子カルテの導入がより進んでいけば、診療情報管理士の需要も高まり、求人も増えてくることでしょう。
診療情報管理士は表舞台に出ている医師や看護師とは異なり、あくまで裏方の仕事ではありますが、病院の管理体制向上や医療業務の負担軽減に大きく貢献できることでしょう。
診療情報管理士に興味のある方は、ぜひチャレンジしてみてくださいね。
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