看護師業界で管理職といえば、「看護師長」が思い浮かびます。
スタッフにとって身近な存在である看護師長ですが、皆さんは看護師長の仕事内容についてどのくらい知っていますか?
今回は意外と知らない、看護師長の役割を徹底解説します。
看護師長に必要な能力、業務内容、悩み、やりがい、さらに看護師長の目指し方も紹介します。
管理職コースを目指す看護師の皆さんは、ぜひ参考にしてくださいね。
看護師長の役割とは
まずは看護師長の役割を見ていきましょう。
スタッフのマネジメント
看護師長の最も大きな役割の一つに、スタッフのマネジメントがあります。
看護師長は自分の担当する部署の看護師を統括しなければなりません。
年齢も性別も、経験年数も違う看護師をまとめるのは、なかなか骨の折れる作業だと言えるでしょう。
また、スタッフ間にはさまざまな人間模様があります。
面談の機会を設け職場での悩みについてヒアリングを行い、関係性に配慮しながらシフトを組んだり、時には指導を行う必要があります。
看護師長一人の独断と偏見で物事が進んでしまうことのないよう、看護主任やその他のスタッフの声に耳を傾けることも重要です。
医師や事務職とのやりとり
看護師長は病棟の看護師だけでなく、医師や事務職など他職種ともコミュニケーションをとる必要があります。
入院の受け入れや手術の日程を医師と相談したり、事務的な作業も行わなければなりません。
時には交渉を行いながら、上層部のスタッフとも対等に話をするスキルが求められます。
患者の人数や状況の管理
病棟の情報として、看護師長が必ず把握しておかなければならないのが、入院患者の人数や病床状況の把握です。
看護師長は入院の受け入れの可否を決定します。
病床にどの程度空きがあるか、どのような病状なら入院を受け入れられるかを常に念頭において置く必要があります。
病床状況に空きがあるからといって、重症度の高い患者さんを受け入れ続けると、看護スタッフへの負担が大きくなります。
看護スタッフへの負担はインシデントの発生につながりますので、数としての患者数だけでなく、病状なども把握しておく必要があるでしょう。
トラブル発生時の対応
病院では、さまざまな予期せぬ事態が発生します。
病院での緊急事態としてまっさきに頭に浮かぶのが、患者の急変でしょう。
どのようなタイミングで急変が起こるかは分かりません。
急変が起きた際は、看護師長は責任者として状況を把握し迅速に対応する必要があります。
また、災害発生時も看護師長が指揮を取り、現場の安全を確保します。
この他にもスタッフ間、患者間のトラブルにおいても、責任者として対応が求められるため、柔軟な対応力が必要です。
重大なトラブルにつながりやすいのが、看護スタッフと患者家族間のトラブルです。
クレームにつながりやすく、時には訴訟問題に発展してしまうことも。
当人同士で話がまとまらない場合は、責任者である看護師長が間に入ることもあるでしょう。
看護師長に求められる能力とは
続いては看護師長に求められる能力について見ていきましょう。
看護師長に必要な7つの資質を紹介します。
リーダーシップ
看護師長は、病棟のトップという立場です。
トップに立つ人間に大切な能力といえば、リーダーシップですよね。
病棟の看護師を一つにまとめ、指揮を取る。
リーダーシップは、看護師長に必須の資質だと言えるでしょう。
コミュニケーション能力
看護師長は、同部署の看護師のみならず、他部署のスタッフとも連携を取る必要があります。
医師や事務職、他部署の看護師、さまざまな立場や役職の人と円滑にコミュニケーションを図る能力が求められます。
他部署との関係性が良好であるに越したことはありませんので、緊急時だけでなく、日頃の関わりも重要です。
冷静な判断力
医療現場に立つ人間は、いついかなる場合でも冷静な判断力が求められます。
日々さまざまな問題が発生しますが、管理者は冷静な判断をしなければなりません。
中立な立場で、先を見越して判断する能力が必要です。
知識と技術
看護師長は、病棟の看護師を育てる立場です。
看護に必要な知識はもちろん、技術面でも高いレベルが求められます。
新人看護師に、質問されても何でも答えられる、そんな知識と技術を持ち合わせた看護師長は、尊敬の的だと言えるでしょう。
人の長所を見いだす能力
看護師長は、担当部署にいるスタッフ全員にとって、働きやすい環境を目指す必要があります。
そのためには、さまざまなスタッフの個性を大切にし、長所を見いだす能力も必須。
短所だけを見つけて注意するのではなく、長所にも目を向けて伸ばしていくスキルが必要です。
豊富な現場経験
病院では、日々さまざまなトラブルが生じます。
思っても見なかった場面で患者の容態に急変が起きたり、患者対応で問題が発生したり。
不測の事態に対処するためには、圧倒的な現場経験が重要です。
看護師長として、どのようなトラブルが生じても臆することなく対処するために、いろいろな状況に慣れておく必要があります。
現状の分析力と改善スキル
看護師長は管理職として、病院の発展に貢献しなければなりません。
病院としてどのような課題があるかを分析し、問題点に対して担当部署ではどのようなアプローチができるかを判断します。
状況の分析と改善のためにどのようなアクションを行えるのか、場面に合った改善スキルも持ち合わせている必要があります。
病院看護管理者のマネジメントラダー
日本看護協会は2019年に「病院看護管理者のマネジメントラダー 日本看護協会版」を発表しました。
これは、看護管理者に求められる役割の拡大に伴い公表されたものです。
各病院で必要とされる看護管理者の能力や看護管理者育成の指標として、さまざまな場面で活用されています。
今回は病院看護管理者のマネジメントラダーの6つの能力を紹介します。
組織管理能力
【定義】組織の方針を実現するために資源を活用し、看護組織をつくる力
質管理能力
【定義】患者の生命と生活、尊厳を尊重し、看護の質を組織として保証する力
人材管理能力
【定義】将来を見据えて看護人材を組織的に育成、支援する力
危機管理能力
【定義】予測されるリスクを回避し、安全を確保するとともに、危機的状況に陥った際に 影響を最小限に抑える力
政策立案能力
【定義】看護の質向上のために制度・政策を活用および立案する力
創造する能力
看護師長の業務内容
続いては看護師長の仕事について紹介します。
看護師長が患者を受け持つことは原則ありません。
病棟スタッフとのカンファレンスや、看護部長への報告、他部署との連携が主な仕事内容です。
1日の業務の流れの一例は以下の通りです。
【午前】朝礼→申し送りとうのカンファレンス→入院受け入れや退院調整など
【午後】他部署との会議→夜勤者への申し送りなどのカンファレンス→看護部長への報告→終礼
これらの業務の合間に、病棟内のラウンドも適宜行います。
トラブルが起きていないか確認しながらラウンドしたり、入院患者とのコミュニケーションも大切な業務の一部です。
また、今回紹介した業務内容は、一般的な内容となります。
この他にも診療科や病棟の特性によって、さまざまな業務が行われています。
看護師長以外の管理職とは
看護師長以外にも、管理職にはさまざまな役職があります。
看護師長以外の管理職について、見ていきましょう。
管理職の代表格である看護部長は、看護師のトップです。
看護師長の上司に当たる役職です。
看護部長は、その名の通り看護部のトップですので、病院の経営状況を考えつつ看護部とも連携を図る必要があります。
橋渡し的な役割として、状況の分析力と高いコミュニケーションスキルが求められる役割です。
新人研修などの教育に関しても、責任を担います。
看護師長の下に、看護主任という役職があります。
病院によっては副看護師長などと呼ばれることも。
看護主任は看護師長よりもさらに現場のスタッフに近い立場です。
新人スタッフの指導を任されることもあります。
看護師長より、一般スタッフとの距離が近い中立な立場となるため、さまざまな立場の人とコミュニケーションを取るスキルが求められます。
看護師長の悩みについて
看護師長だけに限らず、管理職という立場は板挟みになりやすいポジションです。
部署のスタッフの声も大切にしつつ、上からの経営面での指摘も尊重しなければならない立場ですので、悩みは尽きないでしょう。
担当部署の決定権を持っているので、意見をまとめるのも大切な役割です。
さまざまな意見を持つスタッフを束ねるには、強力なリーダーシップが必要となるでしょう。
看護師長のやりがいとは
管理職としての悩みもある看護師長ですが、やりがいも十分にあります。
看護師長のやりがいについて詳しく見ていきましょう。
管理職として認められるという実感
管理職はすべてのスタッフがなれる役職ではありません。
研修や試験をクリアしなければなれませんので、特別な役職だと言えるでしょう。
管理職に適しているかどうか資質も試されますので、看護師長試験に合格したときには能力を認められたという実感が大きいようです。
病棟スタッフとは違う業務をこなし、病棟の代表としての職務を行うことは、病棟のトップとして認められているという実感を味わうことができるでしょう。
人材を育成する喜び
看護師長として新人スタッフを指導し、そのスタッフが一人前になってくれた時の感動は計り知れません。
右も左もわからなかった新人を、立派な医療従事者に育て上げたのだという実感は、管理者としての自信につながるでしょう。
給料が高い
看護師長は平スタッフよりも給料が高い、というのは看護師業界の常識ですが、実際にどの程度給料に差があるのか見てみましょう。人事院の2019年の調査によると、看護師の平均月給支給額は約35万円。一方、看護師長は約43万円です。(人事院公式ホームページ「2019年(平成31年)職種別民間給与実態調査の結果」:https://www.jinji.go.jp/kyuuyo/minn/minnhp/min2019_index.html)このように月単位で8万円の差があることが分かります。年間では約100万円近い差になります。病院の規模によってはもっと差が開くこともあるでしょう。このように給料面でも、役職を持たないスタッフに比べてかなり優遇されていますので、やりがいに繋がると考えられます。 看護師長を目指す方法とは
最後に、看護師長を目指す方法を紹介します。
看護師長になりたいからと言って、一般のスタッフが突然なれるものではありません。
まずは看護主任、副看護部長を目指して経験を積むのが必須条件です。
看護主任や副看護部長になるためにも試験や研修があります。
研修内容は、病院によってさまざまです。
これらの研修をクリアし試験を受け、合格した後に看護主任に昇格できます。
その後さらに経験を積み、看護師長の試験に挑むことができます。
試験では勤続年数や資質が重要視されますので、真面目な態度で勤務を続けていくことが重要となるでしょう。
まとめ
いかがでしたか?
今回は看護師長とはなにかを解説しました。
看護師長は、部署のスタッフをまとめるためになくてはならないポジションです。
上司の指示時はもちろん、部下たちの意見も尊重しながら、病棟運営を行う必要があります。
中間管理職として悩みの多いポジションですが、その分任されることも多くやりがいも大きい役職でしょう。
同じ病院でキャリアを積み重ねたい方は、より良い職場環境を作るために看護師長を目指してみるのも良いでしょう。