「医療の現場ではなく、教育の現場から“安心・安全なお産”を支えたい。」
そんな想いを抱いている助産師さんは少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
助産師としての活躍の場は、病院や産科クリニックだけではありません。
助産師学校の教員や大学の助産教員に転職するという道もあります。
とはいえ、これまで医療の現場で活躍してきた助産師にとって教育現場は未知の世界。
求人はどれくらいあるのか。
どんなスキルが必要なのか。
教育の現場ではどんな人物が求められるのか。
臨床現場とは違った疑問が湧いてくるでしょう。
そこで今回は、助産教員になるための道筋として、助産教員の求人の状況や助産教員になるための要件、向いている助産師についてご紹介したいと思います。
■助産教員の求人はどれくらいあるの?
いざ助産教員になろうと思っても、求人がなければ教員になることは出来ません。
まずは助産教員の募集状況を把握するところから始めましょう。
とある求人検索エンジンで全国の助産教員の募集状況を見たところ、
2017年11月14日現在で131件の助産教員の求人がありました。
おもに大学教員の求人を扱っている独立行政法人のサイトでは、
母性看護に関する教授、助教授の求人が76件という結果に。
数字だけを見てもピンときませんよね。
他の助産師の求人数と比べてみると…
助産教員の求人数は病院の求人数に比べてたったの4%ほど。
助産教員の求人はとても希少で、狭き門ということが分かります。
最初から出鼻をくじかれる形となってしまいましたが、ご安心ください。
助産教員の求人は希少ですが、助産教員になりたいという助産師さんも決して多くはありません。なので、倍率はあまり高くないのです。
■助産教員になるためには何が必要?
助産教員の求人は少ないながら全国各地で募集されています。では、実際に応募するとなると、どのような経験や資格が必要となるのでしょうか。結論から言いますと、ある程度の臨床経験と専任教員の資格が必要になります。加えて、助産教員に必要な資格は学校の形態によっても異なります。まず助産教員の勤務先は(1)助産師養成所(専修学校)(2)看護の短大、大学この2つの勤務先に分かれます。ではそれぞれの学校に必要な資格を見ていきたいと思います。(1)助産師養成所(専修学校)での助産教員で求められる資格
助産師養成所、いわゆる専門学校での専任教員の指導要領には以下のように記載されています。助産師養成所の専任教員となることができる者は、次のいずれにも該当する者であること。ただし、助産師として3年以上業務従事したもので、大学において教育に関する科目を履修して卒業した者又は 大学院において教育に関する科目を履修したものは、これに関わらず専任教員になることができるとこ。ア)助産師として5年以上業務に従事した者イ)専任教員として必要な研修を修了した者又は助産師の教育に関し、これと同等以上の学識経験を有すると認められる者
簡単にまとめると、助産教員になるには
「5年以上の臨床経験」と「専任教員としての研修を修了、もしくはそれと同じくらいの学識経験を持っている」、この両方をクリアしている必要があります。
ここで出てくる疑問が、
「専任教員としての研修・・・?もしくは同等の学識経験・・・はて。」
ではないでしょうか。
この「専任教員としての研修」という部分については、
大学や大学院で教育に関する科目を履修している方は既に条件をクリアしていますので、臨床経験が5年以上であれば専任教員としてすぐにでも働けるでしょう。
一方、助産師養成所といった専門学校を出た助産師が助産教員を目指すには、
専任教員養成講習会を受講しなければなりません。
しかし、この専任教員養成講習会は、教員募集の応募時に必要というわけではありません。
助産教員として入職後、1年間の教員講習を受ける事を前提とした採用としている養成所もあります。
資格とは別にもう一つ必要なのが、5年以上のブランクをあけないという事です。
5年以上のブランクがある場合は、採用で大変不利になる可能性があります。
(5)専任教員の採用に当たっては、保健師、助産師又は看護師の業務から5年以上離れている者は好ましくないこと。
上記ガイドラインにて、「業務から5年以上離れている者は好ましくない」と記載されており、必ずしもダメというわけではありませんが、望ましいのは確かです。助産教員を目指す場合は、長期にわたったブランク期間を作らないという事が大切です。
(2)看護の短大、大学で助産教員に求められる資格
看護の短大や大学においては、教員になるための明確なガイドラインはありません。ですが、短大・大学における助産教員の求人では資格ではなく、「博士・修士 (修了見込みを含む)又は学士の学位を有する者、又はこれと同等以上の教育・研究能力を有すると認められる者」といった、学位を持っているか否かを応募条件にしている所が大多数です。ここでまた2つの疑問が頭をよぎったのではないでしょうか。「学位・・・?」「『学位と同等以上の教育・研究能力を有する』・・・?」まずは一つ目の学位についてご説明します。看護における学士号を取得するには大学を、博士号・修士号を取得するには、大学院を出ている必要があります。つまりは看護大学や大学院を卒業していれば、短大や大学の助産教員としての要件は一つ満たしていることになります。大学ではなく助産師養成所(専修学校)を経て助産師が学位を取得する方法は2種類あります。大学や大学院に改めて通い、何らかの学位を取得して助産教員を目指す方法もしくは、大学評価学位授与機構にて大学卒業と同じ「学士」を取得する方法、この2つとなります。2つ目の、大学評価学位授与機構にて学士を取得できる要件は以下の通り。基礎資格を有する者*(1)短期大学を卒業した者(2)高等専門学校を卒業した者 (3)大学の学生**として2年以上在学し62単位以上を修得した者*** (4)専修学校の専門課程を修了した者のうち,学校教育法第132条の規定により大学に編入学する ことができるもの(以下「専門学校を修了した者」といいます。)。この資格には,次の両要 件を満たす者が該当します。イ:修業年限が2年以上で,かつ,課程修了に必要な総授業時数が1,700単位時間(単位制 及び通信制の学科においては,課程修了に必要な総単位数が62単位以上)の課程を修了した者であることロ:学校教育法第90条に規定する(高等学校卒業等の)大学入学資格を有する者であること 上記(1)~(7)の項目のどれかに当てはまれば、学士取得の試験を受ける事ができ、合格した暁には看護学の学士が与えられます。
※「基礎資格を有する者」とは、大学評価・学位授与機構の学位授与制度を利用できる人のことです。
では2点目の疑問、「『学位と同等以上の教育・研究能力を有する…』とは?」について解説いたします。
まず、「学位と同等以上の教育・研究能力」に定義はありません。
何をしてきた場合にその能力があると判断されるのかといいますと、
・審査や評価を経て学会誌に論文が掲載された
・研究紀要論文に掲載された
上記のような論文の実績が評価の対象とされます。
難しい話ばかりしましたので、助産師養成所(専修学校)と短大・大学におけるそれぞれの応募要件を簡単にまとめてみました。
【助産師養成所(専修学校)】
(1)大学もしくは大学院で教育に関する科目を履修し、卒業したのち、助産師として3年以上の臨床経験を持っている者
(2)(1)に該当しない場合は、下記2つの要件を満たしている者
・助産師として5年以上の臨床経験を持っている
・専任教員として必要な研修を修了している もしくは、同等の学識を持っている
※とありますが、実際には5年以上の臨床経験があれば専任教員に必要な研修は入職後に受講できるケースもあります。
【短大・大学】
(1)助産師資格を有する者
(2)学士、修士、博士のいずれかの学位を有する者、もしくは同等の研究業績を有する者
(3)助産師として3年以上の臨床経験を有する者、
上記3つの要件を満たす者
※学校によって応募要件は異なりますが概ね上記の要件となっています。
いかがでしょうか?
今の現状をぜひチェックしてみてください。
■どうやったら助産教員になれる?
助産教員になるために必要な資格をお話しした次は、助産教員になるためには、どのような道を歩んでいけば良いのかという事についてお話しします。助産教員に必要な要件を満たし、いざ教員の道へと進もうとした場合、助産教員になる方法は主に3つあります。まず1つ目は「公募で助産教員を目指す道」
2つ目は「上司からの推薦や異動希望で助産教員となる道」
そして3つ目は「かつての恩師に頼る道」
助産教員になるためのそれぞれの方法についてとメリット、デメリットを見てみましょう。1つ目の「公募で助産教員を目指す道」
。これは、自分で求人を検索する、もしくは転職エージェントを通じて応募します。メリットは、色んな条件の中から、理念に共感したり雇用条件が魅力だと感じた求人を選んで応募すること出来きるという点です。転職エージェントを利用すれば条件交渉も可能になります。デメリットは、応募者はほぼほぼ同じラインに立っての戦いという事でしょうか。縁故という後ろ盾はありませんが、転職エージェントを利用していれば、担当のキャリアアドバイザーがフォローをしてくれるでしょう。2つ目の「上司からの推薦や異動希望で助産教員となる道」
については、助産師養成学校をグループに持つ病院で働いている場合に限ります。助産師としての臨床経験を多く持ち、人を育てるのが上手な方や教育に適していると判断された場合、上司から助産教員への配置転換を勧められる事があります。快諾すれば晴れて助産教員への道が開き、一向にお声掛けがない場合は、自ら異動希望を出し、助産教員として働かせてもらうという手もあります。メリットは、同じグループなので融通が利きやすく、雇用条件についてもしっかりと把握できるという点です。また、推薦をもらった場合それが自信となり、教育の現場でも指導に自信を持って臨めます。デメリットとしては、推薦をもらえる可能性の低さと、異動が希望に沿うとは限らないという点です。3つ目の「かつての恩師に頼る道」
については、自分が卒業した母校の恩師に相談して母校で採用してもらうか、募集をしている学校を紹介してもらう道です。メリットは、先生のツテという事で採用のハードルが低くなる、という事が挙げられます。デメリットは、雇用条件が曖昧になってしまう可能性がある、という点です。自信で応募した場合は、事前に雇用条件を確認し納得した上で入職を決意しますが、縁故採用となると多いのが、雇用条件をはっきりとさせず何となく採用が決まり入職してしまうケースです。縁故であるがゆえに、入職後、納得のいかない条件があったとしても飲まないといけなくなる場合も出てきます。助産教員になる道はいくつかありますが、どの道が自分にとって良いのか慎重に選ばなければいけません。 ■助産教員に向いているのはどんな助産師?
助産教員になるための方法を順序立ててお話してきましたが、最後に気になるのは、「自分は助産教員に向いているのだろうか」という事ではないでしょうか。助産教員に向いている方というのは、まず大前提に「人を育てるのが好き」
という方です。助産教員の仕事場は教育現場ですので、これは外せないでしょう。そして、「人前に立つのが好き」
という事も大切です。除算教員は、教壇に立って母性看護・助産学について指導していかねばなりません。「人前に立つのが苦手で、上がってしまって、何を話していいか分からなくなる」という場合は、積極的に人前に立つ機会を作り、教鞭を執る前に克服しておく必要があるでしょう。助産教員は、助産師としての基礎知識を教えるだけでなく、これまで自身が助産師として培ってきた知識や経験を、助産師の卵である学生にしっかりと伝えていかなければなりません。これまでの実践において学んだ事を分かりやすく伝えるという力も求められるでしょう。