医師や看護師などの医療関係者なら誰もが知っている、フィジカルアセスメント。
今回はフィジカルアセスメントについて、分かりやすく解説します。
フィジカルアセスメントの意味や目的、注意点を紹介します。
どのようにアセスメントしたら良いのか、例やポイントも解説しますので、ぜひ参考にしてください。
フィジカルアセスメントとは
まずはフィジカルアセスメントについて紹介します。
意味や目的を知り、アセスメントがなぜ必要なのか理解を深めましょう。
フィジカルアセスメントの意味
そもそもフィジカルアセスメントとは、問診、視診、触診、打診、聴診を通して、患者さんの全身状態を評価すること。
患者さんがどのような状態なのか理解し、適切な処置を考える作業のことを言います。
フィジカルは「身体」という意味です。
アセスメントには「評価」「査定」という意味があります。
日本では、フィジカルアセスメントのことを身体診察技法や身体診査、身体診察などと呼ぶこともあります。
フィジカルアセスメントの目的
医療関係者には欠かせない技術であるフィジカルアセスメントですが、医師と看護師ではアセスメントの目的が異なるのが特徴です。
医師は診断を確定するためにフィジカルアセスメントを用います。
一方で看護師は、患者さんに必要な看護ケアは何か探るためにフィジカルアセスメントを行います。
フィジカルアセスメントを行わなければ、どんな看護ケアを行うかを決められませんので、看護の過程で必ず必要なものだと言えるでしょう。
フィジカルアセスメントの流れ
続いてはフィジカルアセスメントの流れを解説します。
正しくフィジカルアセスメントを行うためには、順序があります。
各手順を見ていきましょう。
フィジカルアセスメント1.問診
厚生労働省の「看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き」によると「腹部の診察」について、フィジカルアセスメントでまず最初に行うことは「問診」であると示されています。腹部の診察に限らず、最初に行われるフィジカルアセスメントは問診であると覚えておくと間違いないでしょう。(参考:看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き「腹部の診察」)問診とは、患者さんの訴えを聞き情報を収集する作業のことを言います。病院に行くと、診察前に問診票という症状を記入する用紙を書いたことがある人もいるかと思います。症状が出現した時期や症状の程度など、詳細な情報を収集します。 フィジカルアセスメント2.視診
患者さんへの侵襲を最小限に抑えられるように、フィジカルアセスメントの順番は問診、視診、触診、打診、聴診の順序で行います。
ただし症状や程度によって、フィジカルアセスメントの順番は前後しますので、状況によって判断する必要があります。
一般的にはフィジカルアセスメントの2番目に行うことは、視診です。
視診では、患者さんの全身状態の観察を行います。
全身を観察し、身体的な異常や、身体機能に異変がないかを確認しましょう。
フィジカルアセスメント3.触診
フィジカルアセスメントの3番目に行うことは、触診です。
触診では、患者さんの身体に触れて、皮膚の状態や疼痛部位の確認を行います。
フィジカルアセスメント4.打診
フィジカルアセスメントの4番目に行うことは、打診です。
打診では、患者さんの腹壁などを叩いた振動から症状をアセスメントします。
腹壁の振動から、ガス溜まりの有無や疼痛部位の確認を行います。
フィジカルアセスメント5.聴診
フィジカルアセスメントの5番目に行うことは、聴診です。
聴診では、聴診器を用いて患者さんの心音、呼吸音、血管音、腸蠕動音を確認します。
フィジカルアセスメントの注意点
続いてはフィジカルアセスメントの注意点を解説します。
SOAP(ソープ)を用いる
フィジカルアセスメントを行う際は、SOAP(ソープ)を用いる場合もあります。
必ず使用しなければいけないわけではありませんが、多くの医療機関ではSOAP(ソープ)を用いて看護記録を記入していますので、覚えておくと良いでしょう。
SOAP(ソープ)とは、各単語の頭文字をまとめたものです。
SはSubject(主観的な情報)、OはObject(客観的な情報)、AはAssessment(アセスメント)、PはPlan(プラン)です。
それぞれについて解説します。
まずS情報は、主観的な情報です。
つまり、患者さんが訴えている情報を記入します。
客観的な情報や憶測での情報は記入しないようにしてください。
例えば、S情報:「お腹が痛む、2日前から少し痛むんだよ、ううう」
のように正確な表現で記録しましょう。
続いてO情報は、客観的な情報です。
患者さんの情報を主観的な情報以外で、看護師が見たままを記入します。
例えば、O情報:ベッド上端座位にて問診を受ける。発汗多量。眉間にシワを寄せながらS情報を話す。腸蠕動音は良好。排便は昨晩3回。
のように記入しましょう。
Aはアセスメントですので、S情報とO情報を分析し、看護師が感じた印象や意見を記載します。
例えば、A:発汗が多量にあり、苦悶の表情を浮かべていることから腹痛が強い様子。
最後はP、プランを書き加えます。
プランは、看護計画を記載しましょう。
主観的な情報、客観的な情報、アセスメントをもとに、今後の計画を記載します。
例えば、P:腹部の観察を2時間おきに行う。
のように、記載しましょう。
思い込みで情報収集しない
フィジカルアセスメントを行う際は、思い込みで情報収集しないことが大切です。
きっと〇〇だろうと、仮説を立てて情報収集を行ってしまうと、収集する情報に偏りが出てしまいます。
フラットな目線で患者さんを観察することが大切です。
アセスメントを看護計画に活かす
患者さんからの情報や、客観的な情報から、アセスメントを行いますが、アセスメントをしただけでは看護に繋がりません。
自身で行ったアセスメントから、どのような看護ケアを行うべきなのか、根拠に基づいて看護計画を立てましょう。
また、看護計画は具体的に設定し、実行しやすく記載することも重要です。
フィジカルアセスメントの例・ポイント
最後はフィジカルアセスメントの例や、ポイントを部位や症状別に解説します。
アセスメントに役立つ例をまとめましたので、ぜひ参考にしてくださいね。
前胸部のアセスメント
まずは前胸部のアセスメントを紹介します。厚生労働省の「看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き」より、フィジカルアセスメント(身体診察手技実習)事例5、前胸部を参考に解説します。(参考:看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き)視診では・皮膚所見および表在血管を確認する
・胸郭の形状、動的な変化を確認する
・胸骨角、剣状突起、肋間を確認する。
視診の留意点は以下の通りです。・チアノーゼの有無や呼吸様式の異常の有無を確認する。
・胸郭の変形・左右差・ 呼吸補助筋肉の使用の有無を確認する。
打診では・肺尖部から肺底部に向かって左右交互対称に打 診する(左右差を確認)。
打診での留意点は以下の通りです。・打診方法(指の使い方) 打診8か所以
・清音(正常)・濁音・ 過共鳴音・鼓音の有無を確認する。
聴診では・膜型を用い、打診と同じ部位を肺尖部から肺底部に向かって左右交互対称に聴診する。
聴診での注意点は以下の通りです。・聴診器を温めて使用
・聴診8か所以上呼吸音の減弱の有無、複雑音の有無 (wheeze・stridor・ cracklesなど)
各情報からのアセスメント結果は、以下の通りです。・視診ではチアノーゼから酸素化の不良を胸郭の動きから気道の狭窄・閉塞を呼吸様式の異常から脳障害や尿毒症・アシ ドーシス等の予測等が出来る。
・打診では、清音なら正常、濁音なら充実性の構造物を意味し (肺炎・無気肺・腫 瘍・胸水等) 過共鳴音は含気の増量の増加(気胸・ COPD)、鼓音は含気量が高度に増加 (気胸、巨大ブラ 等)の予測が出来る。
・聴診では呼吸音の減弱がないか。
①呼吸音が発生しなければ、局所の気流や換気が低下(CPOD・ 無気肺・気道閉塞)②呼吸音が伝わらなければ、胸腔内に空気や水分が貯留 (胸水貯留・気胸)、 複雑音(wheeze・ stridor・cracklesなど)から気道の閉塞や液体の貯留が予測できる。 腹部のアセスメント
厚生労働省の「看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き」より、フィジカルアセスメント(身体診察手技実習)事例6、腹部を参考に解説します。(参考:看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き)腹部のアセスメントの視診では・腹壁の形状と皮膚の状態をみる。
・輪郭、形状(平坦・膨隆・陥凹及び腫瘤の有無)を確認する。
・皮膚の視診(皮疹・ 着色斑・手術瘢痕・静脈怒張・皮膚線条などの有無)を確認する。
視診の留意点は以下の通りです。・非診察部位はバスタオルなどで覆う。
・両膝は伸展した状態で行う。
聴診では・腸蠕動音と腹部動脈の血管音を聴取する。
・腸蠕動音の聴取頻度(亢進・減弱・ 消失)や音の性状 (金属性などの異常音の有無)について調べる。
・腹部の血管音の聴取腎動脈(両側)、腹部大動脈、総腸骨動脈(両側)で血管雑音の有無を調べる。
・振水音の聴取(腸管内ガスと水の貯留を調べる)
聴診の留意点は以下の通りです。・聴診は、蠕動が人為的に刺激される 打診や触診の前に行う。
・1か所で1分以上聴取する。
打診では・視診や触診による所見を補い、診察を確かなものにする。
・腹部全体の打診(打診音の異常と痛みの有無を調べる)
・肝臓の打診(肝のおおよその大きさを調べる)
・脾臓の打診(腫大の有無を調べる)
・叩打診では炎症や結石などがあると、叩けば疼痛を生じることがある。
・肝臓の叩打診では叩打痛の有無を調べる
・脾臓の叩打診では叩打痛の有無を調べる。
・腎臓の叩打診では叩打痛の有無を調べる。
打診の留意点は以下の通りです。
・腹部は便宜上4つ又は9つに分けられる。部位と名称を覚える。
触診では・系統的にまんべんなく行う。
・浅い触診・深い触診(圧痛や腫瘤などの有無を調べる) 肝・脾・腎(腫大などの有無を調べる)
触診の留意点は以下の通りです。・肝・脾・腎の触診では、手・指 の当て方及び呼吸との関連を理解する。
その他の診察では・腹水や腹膜刺激徴候など、 いくつかの特異的所見に対する重点的に行う。
・腹膜刺激徴候の診察(筋性防御や反跳痛の有無を確認し腹腔内の炎症症状の有無を調べる)踵落とし試験もその一つ。
・腹水の有無の診察(腹水の有無を調べる)
各情報からのアセスメント結果は、以下の通りです。・視診で皮膚疾患や全身性疾患や内臓悪性腫瘍などでも 皮疹を伴うことがある (Leser-Trelat徴候)、皮下静脈怒張は門脈圧の亢進が分かる。また手術瘢痕・ 臍ヘルニア・腹壁瘢痕ヘル ニア・鼠径ヘルニア・脂肪種等が分かる。
・聴診では、腸蠕動音の頻度と性状により亢進していれば過敏性腸症候群・腸炎、 金属製の雑音では機械的イレウス、減弱では胃腸機能の低下等、消失では麻痺性イレウス等が予測できる。
・血管音は、左右の腎動脈・ 大動脈・左右の総腸骨動脈が聴取され、動脈に狭窄や部分的な拡張があると血管 雑音が聴取される。
・ 打診では、痛みや腫瘤、ガスの分布をみる。鼓音は腸管内のガス貯留、濁音は実質臓器(肝、脾など)や腫 瘤・糞便で聴かれる。
・触診では、炎症などによる疼痛や腫瘤、筋性防御の有無などをみる。
・圧痛や筋性防御があると腹壁表面の異常・高度 の腹腔内炎症・腸管の膨満が予測できる。
・腹部の腫瘤では位置・可動性・表面の性状・ 他臓器との関係・拍動の有 無・硬さ・呼吸性異動の有無・大きさと形・圧痛の有無で胃・肝・腎・結腸・子宮などの腫瘍、脾腫・子宮筋腫・ 妊娠などの予測が出来る。
・腹圧を加えて触れにくくなる場合は腹腔内に変化がない場合は腹壁の腫瘤か予測が出来る。
・圧痛では、急性虫垂炎の際のMcBurney点、急性胆嚢 炎が疑われる時のMurphy徴候は確認する。
・腹膜刺激徴候の検査として、咳嗽試験・筋性防御・反跳痛の有無、踵落とし衝撃試験で炎症や腹膜炎が疑われる。
・触診では、肝・脾・腎等の大きさや硬さ腹水の有無等が分かる。
気道のアセスメント
厚生労働省の「看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き」のフィジカルアセスメント評価表では、気道のアセスメントにおいて下記の点が評価基準とされています。・声が出ているか
・胸郭異常を認めないか(陥没呼吸・シーソー呼吸)
・狭窄音は聞こえないか
(参考:看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き) 呼吸のアセスメント
循環のアセスメント
意識のアセスメント
まとめ
今回はフィジカルアセスメントについて解説しました。
フィジカルアセスメントは、看護の場面において必要不可欠なものです。
最初は難しいなと感じるかもしれませんが、先輩看護師のアセスメントを見て学んだり、日々の看護記録を欠かさず記入することで、フィジカルアセスメントのコツが掴めるでしょう。
今回紹介したアセスメント例を参考にしながら、根拠に基づいたフィジカルアセスメントを実践しましょう。