職場に復帰する理由は人それぞれちがいます。
「出産を機に看護師を辞めたけど、子どもも大きくなったし戻ろうかな」
「体調を崩して看護師から離れていたけど、もう一度チャレンジしたい」
など、精神的にも体力的にも余裕が出てきて現場復帰したいと思う方は多くいらっしゃるかと思います。
また、近年では新型コロナウイルスによるワクチン接種にて看護師が不足しており、現在潜在看護師を必要としている声が話題となっています。
そんななか、一つ気になるのが“ブランク”をどう判断されるのかということ。
そこで今回、元看護師の筆者がブランクから復職した経験をもとに、みなさんのお悩みに回答します。ブランク看護師におすすめの職場、復職準備でおさえておきたいポイントのほか、筆者が復職のときに「失敗した…」と思ったこともお伝えします。
復職を目指す看護師は皆不安を抱えています
職場復帰するにあたって、あなたが不安に感じていることは何でしょうか?
実は、現場復帰を目指す看護師さんの誰しもが、以下のような不安を抱えて就職活動をスタートしています。
「ブランクが心配。技術や知識面、ついていけるかな?」
「もともとあまり経験がないまま辞めたんだけど、復職先はあるの?」
「看護師の仕事、家事や育児と両立できるかな?」
「復職先でちゃんと教育を受けられるだろうか?」
「仕事が覚えられず、足手まといになったらどうしよう…」
“ブランクは短く、経験年数は長く”それは誰しもが思い描く理想だと思います。
現実は厳しく、思い描いた理想通りにはいかないもの。とくに女性の割合が多い看護師業界では、結婚、妊娠、子育てなど、ライフプランに合わせて仕事を調整しなければなりません。
ですが、必ずしもブランクがあるから復職できないなんてことはありません。
今も昔も、看護師不足は深刻な状況です。看護師の復職は病院側としても大歓迎。
「ブランク歓迎」「ブランクOK」と明記している求人も豊富にあることから、その背景が伺えます。
では具体的にどのような職場が、ブランクをもつ看護師さんを歓迎しているのでしょうか。
ブランク看護師の求人&職場選び
「ブランク歓迎」「ブランクOK」の求人はたくさんありますが、実際どのように選んだらいいのでしょうか。
ブランク看護師におすすめの復帰先
ブランクをもつ看護師におすすめの職場は、おもにこちらの二つ。
◆慢性期、回復期病棟
◆透析室・透析クリニック
なぜこれらの施設がおすすめなのか、詳しく解説していきます。
慢性期、回復期病棟
慢性期病棟はこんな方におすすめ ◆患者さんとじっくり関わりたい
◆患者さんの入院生活を、より良いものにしたい
◆知識・技術を着実に身に着けたい
慢性期病棟は日々の業務がルーチン化していることが多く、「何を予習・復習すべきか」が分かりやすいのが特徴です。 ブランクのある看護師は知識・技術面に不安を抱えることが多いので、毎日の業務に必要な勉強が分かれば、安心して取り組めます。 患者さんと関わる時間も取りやすく、患者さんにじっくり向き合った看護がしたい方に、特におすすめです。 ▶慢性期の求人はこちら 回復期病棟はこんな方におすすめ ◆患者さんが回復していく過程に関わりたい
◆PTやOTと協力して仕事をしたい
◆いろいろな患者さんと関わりたい
回復期病棟は、患者さんの入退院が多いため、ルーチン化はされていません。 ですが入退院のスケジュールが組まれているため、こちらも「どんな勉強が必要か」の予測が立てやすくなっています。リハビリが主ですのでPT・OTと関わる機会が多く、看護師では気が付けない視点を学ぶことができます。 回復期病棟の患者さんは数か月で退院することが多いため、さまざまな症例の患者さんを受け持つことができ、今後のスキルアップにも繋がりますよ。 ▶回復期の求人はこちら 透析室・透析クリニック
透析室・透析クリニックはこんな方におすすめ ◆専門性の高い知識をつけたい
◆患者さんとじっくり関わりたい
◆家庭と両立しつつ給与も確保したい
透析室での看護は「透析時の穿刺」「透析中のバイタル観察」「透析後の抜針・止血」「生活指導」と、ルーチン化されていることが多いです。 原因疾患も、代表的な「糖尿病性腎症」「慢性糸球体腎炎」「腎硬化症」が7割を占める(※1)ため、「何から勉強したらいいか」が非常に明確です。 透析看護は他科では学ぶ機会がなく、専門性の高い知識を身に着けることができます。 筆者も透析クリニックに勤めていましたが、自宅での生活指導も含めた看護を学べたことは貴重でした。 透析は10年以上続ける患者さんも多く、長く患者さんと関われるのも特徴です。 常勤でも日勤のみのところが多く、日勤でも22時以降に勤務があれば、割増賃金を受け取るとができます。また、ほとんどの職場が日曜日はお休み。 看護師のお休みは不規則になりがちですが、透析ならそんな心配もいりません。 給与を確保しながら家庭と両立したい、という方にはうってつけです。 ▶透析クリニックに関する求人はこちら▶透析室に関する求人はこちら
ブランク看護師は避けたほうがいい復帰先
一方、先ほどとは逆にブランクを抱える看護師さんが、復帰するには難しいと感じる職場ついてお話します。なぜ避けたほうがいいのか、その理由についても詳しく解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
救急、急性期病棟
救命救急や急性期病棟では、患者さんの急変が多く、臨機応変な対応力が求められます。業務について先輩に質問をする時間もとりにくく、ブランク後にはあまりおすすめできません。
また残業も多くなりがちなため、家庭との両立を考える場合は、とくにむずかしい職場となっています。
透析以外のクリニック
「クリニックなら夜勤もないし、家庭と両立しやすそう」と考える方も多いですが、筆者はおすすめしません。教育体制が整っていないことが多く、知識・技術が不安なブランク看護師には、意外とむずかしい職場です。
看護師が少ないので急な休みがとりにくい職場もあります。「家庭と両立したくて選んだのに、休めないなんて…」と、本末転倒になることも。
訪問看護
「訪問看護なら、両親を介護した経験を活かせるかな?」
と希望される方も多いですが、こちらも筆者はおすすめしにくいです。
訪問看護は、基本的に看護師一人で訪問します。
もちろん採用されてすぐは先輩がついてくれますが、ひとり立ちをしたあとは、とっさの判断を一人ですることになります。訪問の時間も細かく決まっており、時間を意識しながら手際よく看護をおこなう必要があります。
職場によっては、オンコールで深夜に呼び出されることもあり、家庭との両立もむずかしいです。
筆者は独身で訪問看護を経験しましたが、オンコール当番の夜は休んだ気がしませんでした。
また、訪問看護は特定の科にしぼらないので、幅広い知識が必要です。
勉強に時間をとれないと、むずかしいと感じてしまうことも少なくありません。
老人ホームなどの介護施設
「老人ホームって、看護師は楽なイメージだけど」
病棟でのバタバタを経験していると、介護系の施設がうらやましく思えますよね。
ですが、介護系の施設ということは、常駐する看護師が少ないということです。
日勤帯に看護師が一人だけ、という職場もあることでしょう。
「利用者さんが微熱なんですけど、入浴は大丈夫ですか?」
「薬を飲んでくれないんですが、どうしましょう?」
様々な判断を、自分一人ですることになります。
筆者もブランク後に施設を経験しましたが、判断に自信がもてず、すぐに退職してしまいました。ブランクのある看護師さんには大変だと感じてしまうかもしれません。
いかがでしたでしょうか。
「ブランクあり歓迎」と書かれていても、実際に働いてみると見えてくる大変さというものがあります。
「ブランクあり歓迎と書かれていたから大丈夫でしょう」と安易に決めてしまうのではなく、あらかじめどういった業務内容なのか、ブランクを補えるほどの手厚いサポートがあるかどうかを確認してから検討してみると良いですね。
「ブランクあり」の求人を探すならここに注目!
では、具体的にどのようなサポートを受けることができるのでしょうか。
求人を探す際には、以下のサポートがあるかどうかチェックしてみてくださいね。
プリセプター制度
教育担当の先輩が業務の指導をしてくれる、プリセプター制度。
「プリセプター制度は新人看護師に適応した制度でしょ?」
いえいえ、経験者でもプリセプターをつけてもらえることがあります!
経験者への教育が充実している職場は多く、平成24年のナースセンターの調査では、再就業した看護師の3割近くが職場の教育体制について「希望のとおりだった」と回答しています。(※2)
ブランク看護師の教育体制を整え、復職しやすくしてくれているのですね。
経験者の教育について書かれている求人もあるので、そういったところを選ぶと安心です。
恥ずかしいことに筆者は教育についてきちんと確認しないまま入職してしまい、数か月で辞めた経験があります…。求人に書かれていなくても、教育について相談すると対応してもらえることもありますので、復帰の際には一度確認してみましょう。
不安なとき、相談できるプリセプターがいると、それだけでホッとしますね。
「PNS(パートナーシップ・ナーシング・システム)」
PNS(パートナーシップ・ナーシング・システム)とは、看護師がペアを組んで、看護をすることです。 先輩・後輩看護師で組むことが多く、お互いを助け合いながら看護を行います。 先輩看護師の技術、スケジュールの組み方を間近で学ぶことができるのが魅力のひとつ。 PNSがおすすめなのはこんな方 ◆助け合いながら仕事がしたい
◆先輩の技術を間近で学びたい
◆相談しやすい環境で働きたい
看護師の悩みで多いのが、「先輩がみんな忙しそうで、相談しづらい…」というもの。 ですがPNSなら、ペア相手と一緒に業務をするので、お互いにいつでも相談し合うことができます。 PNSを導入している病院は多くないですが、ブランク看護師には非常におすすめです。
院内託児所や子育て支援制度
「看護師って、休みにくいから育児と両立しづらいのよね…」
いえいえ、最近は託児所を併設する病院も多く、子育て世代の看護師が働きやすくなっています。
令和元年の厚生労働省の調査では、全国の病院数に対して院内保育を実施しているのは全体の43%。そのうち、96.6%の看護師(准看護師)が自施設の院内保育を利用していることがわかりました。(※3)
24時間対応の託児所もあり、子育て世代の看護師が働きやすい職場が増えています。 職場に託児所があれば、お迎えの心配もありませんし、何かあったときにすぐかけつけることができます。
託児所がない場合でも、先輩看護師に子育てをしている方が多ければ、職場の理解があるだろうと予想できます。
「困ったときはお互いさま」の気持ちがある職場なら、育児と両立できますね。
(※3)厚生労働省│院内保育等の推進について
ブランク看護師の復職準備、ここがポイント
「ブランクが長くて、どんな準備をしたらいいか忘れちゃった」
「看護技術、練習したいなぁ…」
そんな看護師さんには、復職前にやるべきこと、お得な支援制度についてご紹介します。
看護師の復職支援セミナー「再就業支援講習会」に行ってみよう
各都道府県に設置されている「都道府県ナースセンター」では、ブランク看護師向けの「再就業支援講習会」を実施しています。 都道府県により内容は違いますが、主に「採血」「吸引」「体位変換・移乗」「感染管理」「緊急蘇生」などの演習や講義を受けられます。 看護現場から離れると、練習できない技術ばかりですね。 平成24年のナースセンターの調査によると、60か月以上のブランクから復職した看護師は、半分以上が再就業支援講習会をうけていたとのこと! さらに、9割以上の受講者が「役立った」と回答しています。(※4) まさに「ブランク看護師のための講習会」ですね。 看護技術の復習ができるのはもちろん、自分以外のブランク看護師と交流ができるのも、うれしいポイント! ほとんどの再就業支援講習会は無料ですので、「復職しようか迷ってる」という方は、再就業支援講習会をうけてから考えるのはいかがでしょうか。 講習スケジュールの確認・申し込みは、お住いの都道府県看護協会まで ◆都道府県看護協会一覧 ◆東京都ナースプラザ「受講者の声」はこちら ◆大阪府看護協会「講習会の内容」はこちら (※4)eナースセンター│都道府県ナースセンターによる看護職の再就業実態調査
ナースセンターや転職支援サイトを利用して、就職について相談しよう
看護師の転職支援・復職支援は充実しており、復職について相談できる場所も増えています。求人先の人間関係など、求人情報からではわからない部分も、相談員ならわかる場合があります。
ブランクの不安を、誰かに相談できたらうれしいですよね。
ナースセンター
ナースセンターの相談員は、なんと看護職です。同じ看護職の目線から、復職の相談にのってくれます。ナースセンターによっては、交流会やメンタルヘルス相談をおこなっているところも。復職前だけではなく、復職後にも相談できるのが魅力ですね。◆eナースセンターならインターネットから利用できます
看護師の転職支援サイト
転職支援サイトでは、転職支援専門のスタッフが相談にのってくれます。転職支援専門のため、時間の融通がききやすい、求人先との条件交渉を積極的にしてくれるなど、ナースセンターとはまた違う利点があります。「子どものお迎えがあるから時短にしたいけど…」「教育費のために、給与がもう少しほしいなぁ…」なんて自分では言いづらいことも、転職支援専門の相談員ならばっちりです!看護師の転職サイト「看護師ワーカー」では、他の医療職・介護・保育むけの転職サイトも運営していますので、求人の種類が豊富。自分にピッタリの職場を一緒に探してくれます!◆看護師の転職サイト「看護師ワーカー」への相談はこちら 潜在看護師は、離職届を提出して復職支援を受けよう
平成27年より、潜在看護師は「離職届」を提出することが努力義務になりました。インターネットでも簡単に申請でき、申請すると復職支援についての情報がメールで届きます。復職したいかどうかも申請のときにえらべるので、「すぐに働きたいわけじゃないんだけど…」という場合でもとりあえず申請しておきましょう。◆離職届について詳しくはこちら。申請方法もまとめています。 家族との話し合いも重要です
「子どもが大きくなったし看護師にもどろうかな」という看護師さんは、復職前にご家族と話し合うことが大切です。 家族内での家事分担、お子さんが体調を崩した場合に誰がそばにつけるのか、もし残業になった場合にどうするかなど、話しておくといいでしょう。もしものときについて事前に話しておくことで、家族の協力も得ることができ、働きやすいのはもちろんのこと、面接でのアピールポイントにもなります。
Q&A 教えて!ブランク看護師の復職事情
ブランク看護師の復職で、悩みやすいポイントに回答します!
Q.5年以上仕事から離れているのですが、復職は難しいですか? Q.5年以上仕事から離れているのですが、復職は難しいですか?
A. eナースセンターのデータによると、40代の紹介者就職率は6割以上!
平成26年のナースセンターの調査によると、看護師の紹介者就職率は、全ての年代が6割以上。(※5)
20代でも、40代でも、60代でも6割以上です。
40代でも復職できますので、ご安心ください! Q.20年以上ブランクがあります。今の現場が全く想像つかないのですが…。 A. 約20年の間に、電子カルテの導入、クリニカルパス(入院診療計画書)の導入、介護保険法の制定などがありました!
詳細については下記内容をご覧になってください。 ◇パソコンで記録する、電子カルテの導入
大病院を中心に電子カルテが導入され、平成29年には400床以上の病院の85.4%が電子カルテを導入しています。(※6) 慣れれば紙カルテより使いやすいという方も多いですが、パソコンでの文字入力に慣れていない方は最初難しいと感じてしまうかもしれません。操作に慣れてしまえば、電子カルテは時間短縮にもなり、検索ができるなど、作業の効率化をはかれます。 ◇入院から退院までのスケジュール、「クリニカルパス」の導入
疾患や手術ごとに検査や退院などの治療計画をまとめた、クリニカルパス。 日本には平成2年頃より導入され、徐々に広まりました。 クリニカルパスを使うと、患者さんに入院中のスケジュールを説明しやすく、ちがう患者さんにも同じ質の医療を提供できるというメリットがあります。 もちろん全ての患者さんに使えるわけではありませんが、スケジュールが決まっていることで、患者さんの不安を少し取り除けるようになりました。 ◇介護保険法の制定
平成9年に、介護保険法が制定されました。 リハビリを受ける際に医療保険ではなく介護保険を利用する方がいたり、介護保険のスペシャリストであるケアマネージャーが登場したりと、医療の現場にも変化がありました。 保険のちがいについては患者さんから相談されることもありますので、覚えておくといいですね。 飛躍的な医療の進歩により、年々新しい医療システムや法律は変わってきています。 長期間のブランクにお悩みの方は、事前にニュースサイトにて医療情報を把握したり、最新版の看護の本を購入したりと、看護師としての基本をもう一度勉強しておきましょう。 ブランクがあっても「看護師に戻りたい!」と思った時が戻るとき
看護師不足が叫ばれつづけ、現在も看護師は売り手市場です。
団塊の世代が高齢者に突入しはじめたので、今後さらに看護師の需要は高まるでしょう。
看護師の人手不足を解消するためにも、ブランク看護師が復職しやすい支援・働きやすい職場づくりがすすんでいます。「復職したいな」と思ったとき、いつでも復帰できる環境が整っています。
「失敗したら嫌だな…」と足踏みをしている潜在看護師さんも、これを機にぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。