看護師の職場は病院や診療所、介護老人保健施設、企業が一般的ですが、特殊な職場もあります。それは自衛隊看護師という仕事。通常の看護業務に加えて、国内外でさまざまな活動をしています。具体的に自衛隊看護師はどんな仕事をしているのでしょう。
また、自衛隊看護師になるためには、どのような方法があるのか。
今回は病院以外に災害現場などでも活躍する自衛隊看護師についてまとめました。
自衛隊看護師とは
日本には、国内の平和、安全を守り独立性を確保するために自衛隊があります。
自衛隊には陸上・海上・航空の3つにわかれており、日々国の防衛を担っています。各部隊にはそれぞれ医療チームである衛生科部隊が配備されています。よって、自衛隊看護師として入隊した際は各部隊のいずれかに所属する形となります。
国防の特性上、有事の際や天災などで多数の負傷者が出た際に対応できるように全国各地に自衛隊病院を設置しており、自衛隊看護師はその自衛隊病院や前線駐屯地などで勤務する看護師のことをいいます。
自衛隊看護師の仕事内容
おもに自衛隊看護師が行う仕事内容は以下のとおりです。
・自衛隊関係者への看護業務
・被災地に派遣された自衛官の看護および被災者への支援
・国際的な安全保障環境の改善のための活動
・災害やテロなどを想定した野外訓練 など
自衛隊看護師の仕事は、基本的に一般の看護師とあまり変わりはありません。防衛省の職員やその家族、また一般の方を対象に看護業務を行います。
自衛隊病院で働くだけではなく被災地への支援やPKO(国際平和維持活動)など、さまざまな国の平和維持活動があります。そのほか有事の際に備えて、さまざまな状況を想定した訓練を行うのも自衛隊看護師の特徴です。
“通常の業務以外も行う”のが自衛隊看護師
自衛隊看護師といえど普段はナース服を着用し看護師業務を行います。
業務を行う自衛隊病院も昔は自衛官とその関係者だけが使えましたが、現在は一般の方も利用することが出来るので、看護師さんが迷彩服を着て業務を行うことはありません。
ただ、会議や式典などに出席する際は自衛官の制服に着替えて出席します。
自衛隊看護師が特殊なのは看護業務以外にもすることがあるからです。それは訓練です。看護師ですが自衛官でもありますので、定期的に訓練に出ます。訓練では、徒歩行進といった30キロ程度の荷物を背負い山道を歩いたり、射撃訓練や野営訓練、医療訓練などを行ったりします。
このような訓練もあって、東日本大震災や熊本地震での被災地支援に活かされています。
自衛隊看護師になるためには
自衛隊看護師になるには、おもに3つの方法が用意されています。
防衛医科大学校看護学科に入学・卒業する
ひとつは、防衛医科大学校看護学科学生になることです。
防衛医科大学校の看護師養成課程には「自衛官コース」と「技官コース」のふたつのコースが設けられており、卒業後に幹部候補生を目指すか、防衛科大学校病院に勤務するかでわかれます。
防衛医科大学校では、4年間のカリキュラムをもとに一般の教養科目はもちろん、自衛隊看護師として必須となる防衛看護学などの教育を受けることができます。
またどちらのコースを選んでも得られる防衛医科大学校ならではのメリットが3つあります。
・入学金、授業料などの納入は必要なし
・学生手当として約10万円前後(給与)+年2回の賞与が支給される
・卒業時には独立行政法人大学改革支援、学位授与機構から学士(看護学)の学位が授与される
入学金や授業料が無料なだけではなく、学生手当として毎月給与が支給されるのが防衛医科大学校の魅力のひとつ。また在学中に、看護師の資格を取得できるのも嬉しいポイントです。
充実した環境で学べる一方、「それだけメリットがあると受験者の数も多いのでは?」と気になる方もいらっしゃるかと思います。
過去の防衛医科大学校看護学科の入試倍率は以下のとおりです。
【自衛官候補看護学生】
| 定員 | 受験者数 | 合格者数 | 倍率 |
平成29年度 | 75 | 2,076 | 101 | 20.6 |
平成30年度 | 75 | 2,121 | 130 | 16.3 |
令和元年 | 75 | 1,794 | 130 | 13.8 |
令和2年 | 75 | 1,841 | 130 | 14.2 |
令和3年 | 75 | 1,676 | 131 | 12.8 |
【技官候補看護学生】
| 定員 | 受験者数 | 合格者数 | 倍率 |
平成29年度 | 45 | 525 | 54 | 9.7 |
平成30年度 | 45 | 578 | 85 | 6.8 |
令和元年 | 45 | 578 | 78 | 7.4 |
令和2年 | 45 | 488 | 78 | 6.3 |
令和3年 | 45 | 512 | 77 | 6.6 |
引用:(防衛医科大学校 過去の合格状況) 平成29年度から年々倍率は下回ってはきているものの、それでも定員は75名、45名ととても狭き門となっております。倍率が低いからと油断せずに十分に準備を整えてから試験に臨みましょう。 防衛科大学看護科の入学試験は一次試験と二次試験で構成されています。 一次試験は、国語、外国語、数学、理科の4科目の択一式と小論文。二次試験は、面接および身体検査となっています。身体検査は、身長、体重、視力、色覚、聴覚など合格基準を満たしているか検査します。また、慢性疾患、感染症に罹患していないか、四肢関節等に異常がないかどうかも重要な検査基準となっています。 ただし、こちらの方法を選ばれる方にひとつ注意点があります。 それは「卒業後6年未満で離職する場合は、卒業までの経費を償還しなければならない
」ということです。平成25年3月の卒業生の償還最高額は4,603万円。入学金無料や給料、福利厚生が充実している一方、途中で挫折してしまった際のデメリットがあることを十分に理解したうえで慎重に検討しましょう。 一般曹候補生として入隊後、准看護師資格を取る
自衛隊看護師になるための方法として、先に自衛隊に入隊し、あとから准看護師の資格取得を目指すというやり方があります。
まずは自衛隊に入隊、一般曹候補生と呼ばれる一般隊員として各部隊に配属。その後、准看護師を目指す方を対象に選抜試験がおこなわれます。試験に合格したのち、准看護師養成施設にて2年間看護師の資格取得を目指します。
自衛隊の看護師募集に応募する
すでに看護師の資格を取得している方は、自衛隊一般曹候補生として中途採用試験を受ける方法があります。18歳以上33歳未満の方であれば受験することが可能です。
一次試験に3科目の筆記試験と700字程度の作文。二次試験では、口述試験及び身体検査が行われます。採用試験は、防衛省が不定期で募集していますので、興味のある方は定期的に防衛省のホームページをチェックしましょう。
自衛隊看護師の魅力
さまざまなルートで目指せる自衛隊看護師。実際に入職したらどのようなメリットが得られるのでしょうか。「給料」「福利厚生」「休日」の3つのポイントについてみてみましょう。
自衛隊看護師の給料
自衛官看護師と技官看護師でそれぞれ俸給が異なります。
自衛官看護師の給料は「自衛官俸給表」に従い勤続年数や階級によって決定されます。
例えば防衛医科大学校に通った方の場合、卒業時には「曹長」という階級となりその階級に応じた給料が支払われます。
入隊1年目の俸給月額は233,100円。年収にして279万円程度です。看護師の平均年収は482万円(令和元年時点)なのに対して、自衛隊看護師の場合、勤続年数や階級によっては年収500万円を超える場合もあります。
技官看護師の給与は「医療職俸給表(三)」に基づき決定されます。自衛官看護師とは異なり、階級はありませんので経験によって給与額は昇給していきます。
1年目の給与額は自衛官看護師と同様に、年収約270万円程度となり、勤続年数によっては400万円を超えることもあります。一般の看護師とあまり差はないように思えますが、技官看護師は特別国家公務員に該当されますので、充実した福利厚生を受けることができます。
公務員ならではの手厚い待遇
特別職国家公務員の肩書をもつ自衛隊看護師は、通常の公務員と同様にさまざまな福利厚生を受けることができます。
例えば、営舎内で暮らす場合宿舎を無料で借りられるほか、光熱費や食事代などを支給・貸与してもらえます。宿舎に入らない場合でも営外居住手当として給与に加算されるので、必ずしも宿舎で暮らさなければならない、ということではありません。
また、各種保険に加入することができ退職後の補償が一般の看護師よりも手厚いのも嬉しいポイントです。防衛省共済組合施設や提携している施設を割安で利用できたり、週休二日制で休みを安定して取得できたりするのも公務員ならではの待遇といえます。
勤務時間・休日
自衛官看護師の勤務時間や休暇は勤務先によって異なります。
例えば自衛隊中央病院に勤務した場合、診療科によって異なりますが基本的に日勤と夜勤の2交代勤務体制となります。休診日は、土曜、日曜・祝日のほか年末年始の数日間と、一般病棟とあまり変わりはありません。
国内基地や各駐屯地の医療室勤務の場合、日勤が基本的な形となっています。
しかし、自衛官看護師は看護業務以外にも災害やテロなどを想定した野外訓練があります。当日は早朝から夜遅くまで訓練を行わなればなりません。
技官看護師も、勤務時間や休暇は勤務先により異なります。
防衛医科大学校病院は、技官看護師が多く在職しており一般病棟と同様に日勤と夜勤の2交代勤務体制となります。
自衛隊看護師に関する疑問
自衛隊看護師って大変なの?
「訓練がきついって本当?」「体力がないので心配…」と自衛隊看護師に興味はあるけど、自衛隊ならではの訓練に不安を抱える方も少なからずいらっしゃるかと思います。
業務に関していえば、一般の看護師と同じように配属先の病院で患者さんのケアを行います。特別に仕事がきついと感じることは少ないでしょう。
しかし、自衛隊看護師はあくまで、国のため、そして国民の健康と安全のために活動しています。災害やテロなど、いかなる状況にも対応できるように定期的に訓練を行わなければなりません。負傷者搬送訓練や野外を想定したさまざまな訓練が用意されています。
厳しい訓練を乗り越えてこそ、有事の際には今まで培ってきたスキルを発揮することができ、その分やりがいを強く感じることができますよ。
転勤が多いって本当?
一般の看護師には無縁の転勤が自衛隊看護師にはあります。
自衛隊看護師が所属する自衛隊病院は全国にあり、そのすべての病院が勤務地の対象となります。また、所属部隊の異動に合わせて転勤することも少なくありません。
同じ土地で長く働きたいと考える方にはあまり向いていないといえるでしょう。一方で、各地をまわり、その土地の環境化でさまざまなスキルを身につけたいと考える方には自衛隊看護師の仕事はおすすめです。
さいごに
魅力あふれる自衛隊看護師の仕事ですが、それでも一歩踏み出せないという方はいらっしゃるのではないでしょうか。
訓練や転勤などは、一般の看護師ではあまり聞き馴染みのない言葉ですし「体力面や精神面でついて行けるか心配…」と不安を感じる方も多いはずです。しかし、日々の厳しい訓練を乗り越えてこそ強い身体と精神は養われていきます。同じ場所に留まらず各地を巡ることで、より視野を広げるチャンスになるかもしれません。
自衛隊看護師は国のため、国民のために活動できる唯一の仕事です。とても大変なことですが、何事にも変えられないやりがいがあります。
狭き門である自衛隊看護師、私こそは!と思う方はぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。