1.弾性ストッキング・コンダクターの資格とは
下肢静脈瘤・深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症の治療及びリンパ浮腫の治療に、医療機器である弾性着衣・弾性包帯は欠かせない存在です。しかし、誤った使い方をすれば局所的に不適切な圧迫が加わり有害事象を引き起こす可能性があります。
そこで、合併症のない正しい適応、ストッキングの圧迫圧・タイプ(形状・種類)・サイズの適切な選択のほか、使用前後の経過観察を行うのが弾性ストッキング・圧迫療法コンダクターの役目です。
弾性ストッキングの重要性や使用法を患者さんに的確に伝え、治療・予防に役立つように指導していけるプロフェッショナルとして、2002年に弾性ストッキング・コンダクターという専門資格が設けられました。
日本静脈学会では弾性ストッキングの適切に使用していくために、弾性ストッキング・コンダクターの教育、育成、認定を行っており、2020年3月時点で計140回の講習会を開催し、3114人(※1)の資格取得者が認定されました。
2.弾性ストッキング・コンダクターはどんな仕事?
弾性ストッキング・コンダクターの仕事は、医師の指示のもと弾性ストッキングのタイプやサイズの判断と着用時の指導、着用後の違和感などの相談を受け適切な指導を行います。
弾性ストッキングのタイプにもよりますが、足首周囲、ふくらはぎ周囲、大腿周囲など左右同じ箇所を計測し、左右の値の差を確認したうえで弾性ストッキングを選び、治療の経過次第では体格や体重の変化に対応するため、弾性ストッキング処方時には毎回計測し、患者さんに適したものを提案するのが仕事です。
3.弾性ストッキング・コンダクターになるには
では実際に、どのような手順で資格を取得していくのでしょうか。必要な条件と取得までの流れについて解説していきます。
【受験資格】
弾性ストッキング・圧迫療法コンダクターになるためには、以下の条件を満たす必要があります。 ●医師、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学士、薬剤師、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師のいずれかの資格を有していること
●講習会(認定試験を含む)を受講したうえで、受講後2年6か月以内に臨床指導の単位を10単位提出する
【取得までの流れ】
つぎに、資格取得までのおもな流れについて説明していきます。項目ごとに注意すべきポイントがありますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
『STEP:1 講習会の参加』
申し込み後は、弾性ストッキング・圧迫療法コンダクターの講習会を受ける必要があります。
講習会は、講義、実技、筆記試験の3つで構成されており、5~6時間かけて学びます。
■講義
静脈系の解剖や生理、静脈およびリンパ疾患について、慢性静脈不全による静脈性潰瘍について、弾性着衣や圧迫療法について
■実技
弾性ストッキングの着脱方法、弾性包帯の使用方法、慢性静脈不全による静脈性潰瘍に対する圧迫療法の実技
■認定筆記試験
すべての講習を修了後、10題程度を目安に出題(約30分間)
『STEP:2 臨床指導内容書を提出』
講習会を受講したあとは、臨床指導内容書を提出します。
■初回認定:講習会受講日より2年間で10単位分を作成
■更新認定:前回認定日以降、30単位分を作成
初めて資格取得する際には、10単位分の臨床指導内容書。その後更新の度に30単位分の臨床指導内容書を提出しなければなりません。
臨床指導内容書は、1症例につき潰瘍治療が5単位、通常治療は2単位、そして予防的使用は1単位とされます。必要事項をすべて記載し、職場責任者の署名または記名+捺印を受けましょう。
『STEP:3 必要書類の提出』
すべての工程が完了した際には、必要書類をすべて用意し弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター認定事務局宛に提出します。
■初回認定の場合
・申請申込書
・国家資格のコピー
・認定講習会証明書のコピー
・10単位分の臨床指導内容書
・更新料の振り込みが確認できるもの(申請料:5,000円)
※弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター養成講習会の受講後2年6か月以内に申請すること
■更新の場合
・更新申請書
・前回の認定書のコピー
・新しい認定講習会受講のコピー、または30単位分の臨床指導内容書
・更新料の振り込みが確認できるもの(更新料:3,000円)
必要書類を提出したあとは、後日弾性ストッキング・圧迫療法コンダクターの認定証が発行されます。
『更新について』
資格認定は5年間有効となり、期日前の約2年間に施行される認定講習会を再度受講、または同期間中に臨床指導内容書30単位を作成し提出する必要があります。
■申請料:2,000円(認定料・返信用切手代を含む)
【注意】
2022年4月より、弾性ストッキング・圧迫療法コンダクターの資格が新しくなります。
旧弾性ストッキング・圧迫療法コンダクターの資格は2027年3月をもって廃止。2022年4月以降は、「弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター講習会」あるいは「弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター静脈圧迫処置追加講習会」を受講し切り替える必要があります。
4.弾性ストッキング・コンダクターをとるのは難しい?
弾性ストッキング・圧迫療法コンダクターは、指定の講習会に参加し、10単位分の臨床指導内容書を提出することで取得できる資格です。 ほかの医療資格に比べて難易度は低く、働きながら資格取得を目指すことができるので興味のある方はぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
5.弾性ストッキング・コンダクターをとることのメリット・デメリット
弾性ストッキングは足に余分な血液やリンパ液が溜まらないようにする医療用具です。下肢静脈瘤などの患者さんの治療には必ず用いられるアイテムですが、この弾性ストッキングの着用法を誤ると本来期待できる治癒効果が得られない事や、合併症を起こしかねません。
ですがこの資格を持っていると、看護師としての責任感やケアに自信が持てるようになり、安心して患者さんに弾性着衣や弾性包帯についての注意点を適切にアドバイスすることができるようになります。 そして患者さんから弾性ストッキングについての相談や使用についてのお悩みにも素早く対応し、正しい着用法へと導くことができるため、ぜひ取っておきたい資格です。
6.弾性ストッキング・コンダクターの現状と今後
2020年には、慢性静脈不全に対する静脈圧迫処置が診療報酬として算定できるようになりました。施設基準を満たすためには、医師および看護師が所定の研修を修了しなければならず、「弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター講習会」もその研修に該当します。
現在、取得者数は3,114名。(令和3年時点)職種別では看護師が最も多く、次いで医師が多く取得している資格です。年々、各都道府県で弾性ストッキング・コンダクターが認定され、多くの人が活躍しています。この資格は圧迫療法に関してだけではなく、静脈疾患・リンパ疾患、肺塞栓症予防にも適していて、災害時の静脈血栓予防にも役立つといわれています。